破骨細胞の分化と機能を制御するODF/RANKLのシグナル伝達

破骨細胞は高度に石灰化した骨組織を破壊, 吸収する唯一の細胞である. その起源は, 生体に広く分布するマクロファージ系の細胞である. 近年, FosやSrcなどの癌遺伝子を欠損させたマウスは破骨細胞の分化または骨吸収機構に障害をきたし, 大理石骨病を呈することが報告され, 破骨細胞による骨吸収機構の研究が注目されてきた. 我々は, マウスを用いた破骨細胞の分化, 融合, 機能発現を解析する各種の培養系を確立し, その解析を行ってきた. その結果, 破骨細胞の分化と機能は, 骨形成を司る骨芽細胞あるいは骨髄間質細胞の細胞膜上に発現する破骨細胞分化因子(Osteoclast differentia...

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Published in歯科基礎医学会雑誌 Vol. 43; no. 5; p. 519
Main Author 宇田川信之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 歯科基礎医学会 20.08.2001
Japanese Association for Oral Biology
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ISSN0385-0137

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Summary:破骨細胞は高度に石灰化した骨組織を破壊, 吸収する唯一の細胞である. その起源は, 生体に広く分布するマクロファージ系の細胞である. 近年, FosやSrcなどの癌遺伝子を欠損させたマウスは破骨細胞の分化または骨吸収機構に障害をきたし, 大理石骨病を呈することが報告され, 破骨細胞による骨吸収機構の研究が注目されてきた. 我々は, マウスを用いた破骨細胞の分化, 融合, 機能発現を解析する各種の培養系を確立し, その解析を行ってきた. その結果, 破骨細胞の分化と機能は, 骨形成を司る骨芽細胞あるいは骨髄間質細胞の細胞膜上に発現する破骨細胞分化因子(Osteoclast differentiation factor:ODF)によって厳格に調節されていることを提唱してきた. 最近, 破骨細胞の分化と機能を調節する新しいサイトカインである破骨細胞分化因子(ODF/RANKL)が同定された. 本講演では, 破骨細胞の分化と機能を調節するRANKLの役割についてそのシグナル伝達機構に焦点をあてて報告する. p38 MAP kinase(p38)シグナルの破骨細胞分における重要性 RANKLはマクロファージから破骨細胞への分化を促進すると共に, 成熟破骨細胞の骨吸収活性を誘導する. そこで, 破骨細胞の分化と機能発現におけるp38の役割を解析した. (1)p38に特異的な阻害剤であるSB208530(SB)は, 共存培養系における活性型ビタミンDが誘導する破骨細胞形成および骨髄マクロファージからのRANKLとM-CSFによる破骨細胞分化を強力に抑制した. (2)SBはRANKLによる成熟破骨細胞の延命および吸収窩形成活性, 器官培養系における骨吸収活性には何ら効果を示さなかった. (3)RANKLは骨髄マクロファージのp38のリン酸化を促進したが, 破骨細胞のp38リン酸化は促進しなかった. 以上の結果から, P38のリン酸化は破骨細胞の分化に必須なシグナルであるが, 破骨細胞ではp38のシグナル伝達系が作動しないように調節されていることが示された. LPS(リポ多糖)の破骨細胞分化と機能発現に対する作用 LPS刺激によって骨芽細胞のRANKL発現が促進し, この作用はToll-like receptor4(TLR4)を介することが報告されている. そこで, LPSによる破骨細胞分化におけるTLR4の関与を検討した. (1)C3H/HeN(正常マウス)と同様にC3H/HeJ(TLR4異常マウス)由来の細胞を用いた共存培養においても, LPSは破骨細胞形成を促進し, それはOPGの添加により完全に抑制された. (2)LPSは正常マウスおよびTLR4異常マウス由来の骨芽細胞におけるRANKL mRNA発現を時間依存的に上昇させ, 処理後48hでの発現のピークは両細胞間で同様であった. この発現上昇はNS398(COX2阻害剤)により抑制され, 共存培養における破骨細胞分化も完全に阻害された. (3)破骨細胞と骨髄マクロファージは共にTLR4とCDl4mRNAを発現しており, LPSは両細胞のNF-kBを活性化した. (4)LPSは破骨細胞の延命を促進し吸収窩形成能を誘導した. 一方, LPSは骨髄マクロファージの延命には影響を与えなかった. (5)LPSは骨髄マクロファージのIL-1b産生を強く促進したが, 破骨細胞のIL-1β産生は全く促進しなかった. (6)LPSは骨髄マクロファージにおけるp38のリン酸化を促進したが, 破骨細胞のP38リン酸化は促進しなかった. 以上の結果は, LPSはTLR4を介さずに破骨細胞の形成を誘導することを示している. また, 破骨細胞とその前駆細胞である骨髄マクロファージに対するLPSの作用は極めて異なっており, この差異はp38リン酸化等のシグナル伝達経路の違いに起因する可能性が示唆された.
ISSN:0385-0137