キノロン耐性が疑われた症例から得られたらい菌のgyrA遺伝子の変異

化学療法が普及しているハンセン病治療の場で耐性菌の出現は非常に大きな問題である. われわれは既にリファンピシン耐性が疑われた症例から得られた菌にrpoB遺伝子の変異が存在することを報告してきた. 通常の薬剤感受性試験が実施し難いらい菌においては迅速な耐性菌の検出法の開発が望まれている. 今回はキノロン剤耐性に関与すると報告されているgyrA遺伝子の変異が耐性を疑われた症例からの菌に高頻度で認められたので報告する. 方法:生検材料よりらい菌を集菌し, 既報によりDNAを調製した. gyrA遺伝子のキノロン耐性決定領域(QRDR)を含む領域をを標的としたPCRを行い, 得られた増幅産物の塩基配列は...

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Published in日本ハンセン病学会雑誌 Vol. 68; no. 1; p. 46
Main Authors 柏原嘉子, 松岡正典, 甲斐雅規, 前田伸司, 中田登, 前田百美, 長尾榮治, 金城邦浩, 後藤正道, 北島信一, 並里まさ子, 尾崎元昭, 柳橋次雄, L. E. Takaoka
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ハンセン病学会 15.03.1999
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ISSN1342-3681

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Summary:化学療法が普及しているハンセン病治療の場で耐性菌の出現は非常に大きな問題である. われわれは既にリファンピシン耐性が疑われた症例から得られた菌にrpoB遺伝子の変異が存在することを報告してきた. 通常の薬剤感受性試験が実施し難いらい菌においては迅速な耐性菌の検出法の開発が望まれている. 今回はキノロン剤耐性に関与すると報告されているgyrA遺伝子の変異が耐性を疑われた症例からの菌に高頻度で認められたので報告する. 方法:生検材料よりらい菌を集菌し, 既報によりDNAを調製した. gyrA遺伝子のキノロン耐性決定領域(QRDR)を含む領域をを標的としたPCRを行い, 得られた増幅産物の塩基配列はBigDye Terminator Cycle Sequencing FR Ready Reaction kitを用いて決定した. 結果と考察:7例の耐性が疑われた臨床試料(内6例は本邦由来)全てがgyrA遺伝子の本部位に点変異を有していた. 4例は結核菌をはじめとする数種の抗酸菌のキノロン耐性株において高頻度で認められる90番アラニンのバリンへの変換であった. 他の1例も耐性との関連が報告されている88番グリシンのシステインへの変異であった. その他の2例もQRDR近傍におけるアミノ酸の置換が認められた. この部位はDNA gyraseの活性中心を含み, QRDRはAサブユニットとキノロンの相互作用に関与すると推定されている. キノロン耐性は培養可能抗酸菌において1段階の選択で得られる. またキノロン剤がハンセン病の治療に導入されてそれ程時間が経っていないにも拘わらず耐性菌が出現していることは, キノロン耐性が獲得されやすいことを示唆している. 遺伝子による診断が100%確定的でないことは結核をはじめ他の抗酸菌症で知られているが, 長時間を要するマウスでのin vivo耐性試験に先立って, 遺伝子による耐性検出が治療に有用かつ迅速な情報を提供できる可能性があると考える.
ISSN:1342-3681