膝外傷への保存的アプローチ

膝関節には, 前十字靱帯, 後十字靱帯, 内側側副靱帯, 外側側副靱帯の4つの靱帯がある. それぞれの新鮮単独損傷に対する治療方針は確立されているが複合靱帯損傷に対する治療法については議論の多いところである. 演者は整形外科の時代に経験した新鮮膝靱帯損傷のうち, 前十字靱帯損傷, 後十字靱帯損傷, 前十字内側側副靱帯同時損傷, 前後十字靱帯同時損傷膝の治療成績を調査し, 新鮮靱帯損傷への保存的アプローチの有用性について検討した. その結果, (1)保存療法では治癒しないとされている前十字靱帯損傷の場合, ギプスを用いた従来型保存療法で30%, 装具を用いた新しい治療法では50%が良好な安定性を...

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Published inTHE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 53; no. 3; p. 352
Main Author 白倉賢二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北関東医学会 01.08.2003
Kitakanto Medical Society
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ISSN1343-2826

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Summary:膝関節には, 前十字靱帯, 後十字靱帯, 内側側副靱帯, 外側側副靱帯の4つの靱帯がある. それぞれの新鮮単独損傷に対する治療方針は確立されているが複合靱帯損傷に対する治療法については議論の多いところである. 演者は整形外科の時代に経験した新鮮膝靱帯損傷のうち, 前十字靱帯損傷, 後十字靱帯損傷, 前十字内側側副靱帯同時損傷, 前後十字靱帯同時損傷膝の治療成績を調査し, 新鮮靱帯損傷への保存的アプローチの有用性について検討した. その結果, (1)保存療法では治癒しないとされている前十字靱帯損傷の場合, ギプスを用いた従来型保存療法で30%, 装具を用いた新しい治療法では50%が良好な安定性を示した. 日常生活動作に支障がなかった. (2)後十字靱帯損傷に対する保存的治療は, 外科的治療(靱帯縫合術)と同等の安定性を得ることが出来, 日常生活動作に支障はなく, 保存例と手術例の治療成績に差はなかった. (3)内側側副靱帯損傷は保存的療法が良いとされているが, 複合靱帯損傷の場合は靱帯縫合術の適応がある. (4)前後十字靱帯同時損傷のような重度損傷でも, 保存療法が有効であった. その場合, 前十字靱帯の方が後十字靱帯と比べ, 保存療法に良く反応した. 以上の結果より, 新鮮靱帯単独損傷膝に対しては先ずは保存的アプローチを行い, その結果, 障害を残すものに対して, 外科的治療(靱帯再建術)を考慮するのが妥当である. しかし, 複合靱帯損傷の場合は, 新鮮時に外科的治療(側副靱帯縫合術)の適応もあると考えられた. 以上の結果は, 現在の新鮮膝関節外傷に対する治療法の世界スタンダードと必ずしも一致しない, しかし, この分野の論争は, 今後ますます活発化するものと予想され, 本研究は関節外傷学の進歩に役立つものである.
ISSN:1343-2826