アルツハイマー病患者の病態受容 主観的なもの忘れ行為の受けとり方と生活満足に関する検討

本研究はアルツハイマー病 (AD) 患者の主観的な病態の受容様式の特徴を検討することを目的とした. 軽度から中等度のAD患者71例を対象に半構造化面接を行い, もの忘れを自覚しているかどうか, 自覚している場合もの忘れする理由に関する言及がなされるかどうかの2点から病態の受容水準を3群に分けた. 各群における認知機能能力, 抑うつ程度, 精神症状, ADLを比較するとともに, もの忘れする理由に関する言及がなされた群に関してはもの忘れする理由の回答傾向を調べた. さらに, 特定質問として尋ねた来院経緯, 自覚的変化の有無, 現在の生活状況に関する各質問の回答内容の出現傾向から3群間の差異を検討...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 41; no. 5; pp. 534 - 541
Main Authors 田中, 誠, 松林, 公蔵, 北, 徹, 森岡, 瑞穂
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 25.09.2004
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ISSN0300-9173
DOI10.3143/geriatrics.41.534

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Summary:本研究はアルツハイマー病 (AD) 患者の主観的な病態の受容様式の特徴を検討することを目的とした. 軽度から中等度のAD患者71例を対象に半構造化面接を行い, もの忘れを自覚しているかどうか, 自覚している場合もの忘れする理由に関する言及がなされるかどうかの2点から病態の受容水準を3群に分けた. 各群における認知機能能力, 抑うつ程度, 精神症状, ADLを比較するとともに, もの忘れする理由に関する言及がなされた群に関してはもの忘れする理由の回答傾向を調べた. さらに, 特定質問として尋ねた来院経緯, 自覚的変化の有無, 現在の生活状況に関する各質問の回答内容の出現傾向から3群間の差異を検討した. その結果, もの忘れの自覚のない群は他群よりも認知機能能力が低下しており, もの忘れの自覚の有無と認知能力との関連が示唆された. また, 現状の生活満足程度は, もの忘れの自覚のない群では高い傾向, もの忘れする理由に関して言及された群では低い傾向にあり, もの忘れ行為をめぐる自己認識が深いほど現状の受け容れが困難であると考えられた. もの忘れの自覚はあるがもの忘れする理由について言及されない群では, 生活満足程度はばらつく傾向にあり, もの忘れに対する問題意識のもたれ方が個々の患者にとって大きく異なると考えられた. しかし, もの忘れする理由に関して言及された群と抑うつ傾向との間には関連を認めなかったことから, もの忘れする理由づけを図る行為には受け容れ難い現状を患者なりに納得させようとする心理的緩和作用があると考えられた. 各群の病態の受容状態の特徴比較から, 個々の患者の病態や現状に対する理解を勘案しながら患者の個人差に基づいたケアを提供する必要性が示唆された.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.41.534