医学部学生における生活習慣病危険因子の推移

我が国における生活習慣の欧米化の進展による肥満, インスリン感受性の低下, 耐糖能異常, II型糖尿病, 高血圧, 脂質代謝異常を含む“メタボリック症候群”の増加が指摘され, 循環器病発症の大きな危険因子となっている. これらの背景には, 国民栄養調査の成績で明らかのように, 摂取総エネルギー量の増加はないが, 脂質摂取比率の過剰(>25%)が大きく寄与していると考えられる. そして, この脂質摂取過多は1~6歳, 7~19歳の幼小児, 学童~思春期の若年者が顕著で脂質摂取比率は28~30%に達している. このような状況は21世紀における循環器病予防の視点からみて看過できない重要課題と考...

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Published in日本循環器病予防学会誌 Vol. 39; no. 2; p. 90
Main Author 菊池健次郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本循環器管理研究協議会 30.04.2004
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ISSN1346-6267

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Summary:我が国における生活習慣の欧米化の進展による肥満, インスリン感受性の低下, 耐糖能異常, II型糖尿病, 高血圧, 脂質代謝異常を含む“メタボリック症候群”の増加が指摘され, 循環器病発症の大きな危険因子となっている. これらの背景には, 国民栄養調査の成績で明らかのように, 摂取総エネルギー量の増加はないが, 脂質摂取比率の過剰(>25%)が大きく寄与していると考えられる. そして, この脂質摂取過多は1~6歳, 7~19歳の幼小児, 学童~思春期の若年者が顕著で脂質摂取比率は28~30%に達している. このような状況は21世紀における循環器病予防の視点からみて看過できない重要課題と考えられる. 演者は旭川医科大学保健管理センター所長を経験し, 本学学生の健康診断, 健康管理に携ってきた. そして本学学生の入学時および入学後の健康診断時の身体所見, 血圧測定, 心電図の心拍変動(HRV)諸量による自律神経機能の推移, およびCa2→, カテコラミン, アデノシン, アルドステロン, 糖, 脂質代謝, 活性酸素調節系などに関わるマグネシウム(Mg)動態の面から思春期における若者の生活習慣病危険因子の解析を行ってきた. 本講演では, 健診時のBody mass index(BMI), 体脂肪率(BFR), 収縮期血圧(SBP), 拡張期血圧(DBP), HRV諸量:RR間隔変動係数(CVRR), パワースペクトル解析による低周波数成分(LF), 高周波成分(HF), LF/HF比, 血中イオン化Mg値(f-Mg2+)および, これらの関連性を男女別に検討した成績について述べる. まず, 入学時の諸量を1997年および1998年の2年間の学生(n=244)で検討すると, 平均年齢は19.4±0.2歳(♂20.3, ♀18.7), SBP/DBPは116±1/69±1mmHg(♂122/71, ♀111/67), BMIは21.2±0.2Kg/平方メートル(♂21.6, ♀21.0), BFRは21.0±0.4%(♂16.9, ♀23.9), CVRRは6.6±0.2%(♂6.6, ♀6.7), HFは867±55msec2(♂728, ♀965), LF/HF比89±4.1%(♂106, ♀77)で, 男子では女子に比し, いずれも有意に年齢, SBP, DBP, および交感神経活動の指標とされるLF/HF比は高く, BFRおよび副交感神経活動の指標であるHFは低値を示した. 次に, BMI, BFRと諸量との関連では, BMIはSBP, DBPと男女ともに有意な正の, f-Mg2+とは負の相関を示した. また, BMI, BFRはLF/HF比と正相関し, この相関は女子においてのみ認められた. さらに, 降圧系の副交感神経活動を反映するHFはSBPとDBPの両者と, CVRRは次いで, DBPといずれも有意に負に相関し, この相関は女子でのみ有意であった. 1998年と2003年度入学時の学生の諸量を対比し, 最近5年間の推移を検討した. その結果, 2003年/1998年の諸量は, 年齢19.7±0.3/20. 4±0.5歳, 身長166.6±0.9/167.6±0.8cm, 体重59.7±1.0/59.4±1.0Kg, BMI21.4±0.3/21.1±0.3Kg/平方メートル, BFR19.9±0.7/17.9±0.5%, SBP121±1/119±1mmHg, DBP72±0.9/69±1.0mmHgであり, 1999年に比し, 2003年では, BFRは有意に(P=0.02)増加し, SBP(p=0.068)は上昇傾向を示し, 体重, BMIにも同様の傾向が認められた. これらの成績から, 若年学生においては国民栄養調査にみられる脂質摂取比率の増加を反映してか, 肥満, 体脂肪の増加, 血圧の上昇傾向が認められ, 後者の機序には, 肥満, 体脂肪増加とも一部関連する自律神経機能やMg動態の変化が関与している可能性が示唆された. 今後, 循環器病予防の視点に立つと幼小児期を含めた若年者への適切な生活習慣の啓発および修正の実践が極めて重要と考えられる.
ISSN:1346-6267