医学生を対象とした子ども虐待に関する意識調査

児童相談所における児童虐待相談対応件数は年々増加しているが,医療機関からの相談件数は依然として低い状況が続いている.これは,医師が子ども虐待を見落としている可能性や,虐待を発見しても通告を行うことにためらいを感じていることが要因として挙げられる.海外では医師や医学生を対象とした子ども虐待に関する医学教育の有用性が報告されているが,本邦では十分に検討されていない.本研究では,日本大学医学部4年生156人を対象に,小児科医が子ども虐待に関する講義を実施し,アンケート調査により子ども虐待への意識変化について検討を行った.講義では,子ども虐待の現状や虐待が及ぼす心身への影響について説明した他,症例を用...

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Published in日大医学雑誌 Vol. 84; no. 4; pp. 171 - 180
Main Authors 森岡 一朗, 渕上 達夫, 森内 優子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本大学医学会 01.08.2025
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ISSN0029-0424
1884-0779
DOI10.4264/numa.84.4_171

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Summary:児童相談所における児童虐待相談対応件数は年々増加しているが,医療機関からの相談件数は依然として低い状況が続いている.これは,医師が子ども虐待を見落としている可能性や,虐待を発見しても通告を行うことにためらいを感じていることが要因として挙げられる.海外では医師や医学生を対象とした子ども虐待に関する医学教育の有用性が報告されているが,本邦では十分に検討されていない.本研究では,日本大学医学部4年生156人を対象に,小児科医が子ども虐待に関する講義を実施し,アンケート調査により子ども虐待への意識変化について検討を行った.講義では,子ども虐待の現状や虐待が及ぼす心身への影響について説明した他,症例を用いて質疑応答形式で進行し,実際の臨床現場における虐待対応の流れや多機関連携について具体的に解説した.その結果,子ども虐待への関心や医療機関の役割の重要性を認識する対象者が増加した.また,虐待を疑う所見として身体的虐待のみならず,心理的虐待やネグレクトに関する認識も高まり,虐待を発見した際に一人で抱え込まず,周囲と情報を共有し判断しようとする姿勢が見られる様になった.さらに,対象者全員が子ども虐待について学ぶことは有用であると答え,将来,人を診るうえで大切な倫理観にも変化が認められた.以上より,医学生に対して子ども虐待に関する講義を行うことは,将来,臨床現場において役立つ可能性があるため,大学での講義に加え,関連施設で実習を取り入れるなど柔軟な医学教育カリキュラムの構築が必要である.
ISSN:0029-0424
1884-0779
DOI:10.4264/numa.84.4_171