日本海側冷温帯性針広混交林におけるニホンジカの植物嗜好性

ニホンジカ(シカ)の森林植生への影響が懸念されている京都大学芦生研究林において,主要植物種に対するシカの嗜好性を調査した.嗜好性を把握できた90種の植物のうち,嗜好性が高いと判断された種は74種に上った.この結果は,本地域の植物群集の種のプールの大部分が,シカに嗜好されやすい種によって担われていることを示唆している.よって,シカの採食圧が本地域で持続する限り,多くの種で個体群が衰退し,地域のフロラが貧弱化する可能性がある.残りの16種については,シカの食痕をほとんど確認できず,かつ個体の矮小化現象が見られなかったことから,シカの嗜好性が低い種であると判断された.これらの種は,シカの採食によって...

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Published in森林研究 Vol. 78; pp. 71 - 80
Main Authors 阪口, 翔太, 福島, 慶太郎, 藤木, 大介, 井上, みずき, 高柳, 敦, 山崎, 理正
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 国立大学法人 京都大学フィールド科学教育研究センター 2012
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ISSN1344-4174
2759-3134
DOI10.60409/forestresearch.78.0_71

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Summary:ニホンジカ(シカ)の森林植生への影響が懸念されている京都大学芦生研究林において,主要植物種に対するシカの嗜好性を調査した.嗜好性を把握できた90種の植物のうち,嗜好性が高いと判断された種は74種に上った.この結果は,本地域の植物群集の種のプールの大部分が,シカに嗜好されやすい種によって担われていることを示唆している.よって,シカの採食圧が本地域で持続する限り,多くの種で個体群が衰退し,地域のフロラが貧弱化する可能性がある.残りの16種については,シカの食痕をほとんど確認できず,かつ個体の矮小化現象が見られなかったことから,シカの嗜好性が低い種であると判断された.これらの種は,シカの採食によって嗜好性種が消失した後に分布を拡大し,種多様性・機能的多様性の低い群集を再構築する可能性が高い.しかし,シカの嗜好性が状況依存的に変化しうるという側面を考慮すれば,本論文で挙げた低嗜好性種も将来的にはシカに嗜好される可能性もある.今後,芦生地域の豊かなフロラを保全するためには,シカの生息密度と植物群集の変化をモニタリングしながら,シカの生息密度を適切なレベルで管理する努力が必要になるだろう.
ISSN:1344-4174
2759-3134
DOI:10.60409/forestresearch.78.0_71