果樹園の放射性セシウム汚染対策技術開発
福島県の2010年の果実産出額は292億円(2010年農林水産省統計値)で,モモ,リンゴ,カキ,ナシ,ブドウなどが主要な樹種である.その中で,“蜂屋”(“甲州百目”の異名)を主な原料に乾燥加工して出荷されるあんぽ柿の2010年の生産額は約30億円(推定)にのぼっていた.2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い放射性セシウム(以下,RCs)が拡散し,県内の果樹地帯全域に降下した.原発事故の発生時期はウメ以外の落葉果樹は発芽前であった.先行研究を基に土壌からの移行が注視され,果実への移行は限定的であると推測されていた.しかし,幼果の段階で予想外の高濃度のRCsが検出された.過...
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Published in | Engeigaku kenkyuu Vol. 19; no. 2; pp. 97 - 114 |
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Main Authors | , , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 園芸学会
2020
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Subjects | |
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ISSN | 1347-2658 1880-3571 |
DOI | 10.2503/hrj.19.97 |
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Summary: | 福島県の2010年の果実産出額は292億円(2010年農林水産省統計値)で,モモ,リンゴ,カキ,ナシ,ブドウなどが主要な樹種である.その中で,“蜂屋”(“甲州百目”の異名)を主な原料に乾燥加工して出荷されるあんぽ柿の2010年の生産額は約30億円(推定)にのぼっていた.2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い放射性セシウム(以下,RCs)が拡散し,県内の果樹地帯全域に降下した.原発事故の発生時期はウメ以外の落葉果樹は発芽前であった.先行研究を基に土壌からの移行が注視され,果実への移行は限定的であると推測されていた.しかし,幼果の段階で予想外の高濃度のRCsが検出された.過去に,発芽前の果樹園に降下したRCsの移行動態に関する研究はなく,以下の放射能汚染の実態解明と対策技術開発を同時に進めた.1.果樹園および樹体の放射性セシウム汚染の実態および吸収移行経路の解明として,果樹園に降下したRCsは,地表面下数センチ以内にその大部分が留まっており,果実に含まれるRCsは主に樹体へ直接付着したRCsの果実への移行が要因であり,果実のRCs濃度は年数の経過により急速に低下し,その経年推移は指数関数減衰モデルに適合することが明らかになった.2.樹体における放射性セシウム低減技術の開発として,粗皮削りや高圧洗浄機を用いた樹体洗浄により樹体表面の放射線量を大幅に低減でき,後年の果実のRCs濃度低減に効果的であることを初めて定量的に実証した.また,せん定が樹体のRCs保有量を低下させ,果実濃度の低減に一定の効果があることを明らかにした.研究成果は,福島県が策定した“福島県農林地等除染基本方針”(2011年12月)や,“農作物の放射性セシウム対策に係る除染および技術対策の指針”(2012年3月)に反映された.3.あんぽ柿の出荷再開に向けた原料果実の確保と製品管理として,カキ果実の生育期間中のRCsの濃度変化を解析し,加工に適する樹園地のスクリーニング法を確立した.また,生育時および加工時における二次汚染リスクを検証するとともに,製品の非破壊検査機の性能検査に使用する参照試料を作成した.研究成果は,“安全なあんぽ柿生産のための農業生産工程管理実践マニュアル”(2013年10月,福島県あんぽ柿産地振興協会)に反映された. |
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Bibliography: | 932443 ZZ20004168 |
ISSN: | 1347-2658 1880-3571 |
DOI: | 10.2503/hrj.19.97 |