1 熱帯アジアのブユを探る -フィラリア媒介, 系統分類, 種分化と地理的分布の多様性

ブユはハエ目のブユ科に属し. 熱帯から寒帯まで大小の流水系のある地域に広く分布する. 成虫は1.5-6.5mmと小さい. 発育は完全変態で, 卵から蛹までを流水中で過ごす. ほとんどの種の雌成虫は卵発育のために人を含めた哺乳動物や鳥から吸血する. 人や家畜に対し吸血被害を与え, さらにフィラリアや原虫などの病原体の媒介に関与することから衛生上重要な吸血昆虫として知られている. ブユの研究の進捗状況には地域差が見られ, 人回旋糸状虫症(オンコセルカ症)の流行地を含むアフリカや中南米, 人または家畜への吸血被害の著しい北米, 欧州, シベリア, 日本, オーストラリアにおいては, 比較的早くから研...

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Published inMedical Entomology and Zoology Vol. 61; no. 2; p. 180
Main Author 高岡宏行
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本衛生動物学会 15.06.2010
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
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ISSN0424-7086

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Summary:ブユはハエ目のブユ科に属し. 熱帯から寒帯まで大小の流水系のある地域に広く分布する. 成虫は1.5-6.5mmと小さい. 発育は完全変態で, 卵から蛹までを流水中で過ごす. ほとんどの種の雌成虫は卵発育のために人を含めた哺乳動物や鳥から吸血する. 人や家畜に対し吸血被害を与え, さらにフィラリアや原虫などの病原体の媒介に関与することから衛生上重要な吸血昆虫として知られている. ブユの研究の進捗状況には地域差が見られ, 人回旋糸状虫症(オンコセルカ症)の流行地を含むアフリカや中南米, 人または家畜への吸血被害の著しい北米, 欧州, シベリア, 日本, オーストラリアにおいては, 比較的早くから研究が進められてきた. 一方, 動物地理区分でみた東洋区の大部分とオーストラリア区の島嶼部を含む熱帯アジアから南太平洋地域にかけてはブユの研究は少なく, ブユ相も長らく不明のままであった. 本講演では, 最近の知見をもとに, これまでベールに覆われていた熱帯アジアのブユについて概観した. 課題と内容:1)人吸血性ブユとフィラリア媒介(タイ北部でみられた3種ブユ(Simulium asakoae, S. nigrogilvum, S. nodosum)の動物寄生性フィラリア幼虫自然感染), 2)東洋区のブユの系統分類(2008年末までに記録された410種を1属(Simulium), 10亜属(3固有亜属Asiosimulium, Daviesellum, Wallacellumを含む), さらに3亜属では22種群に分類, 3)東洋区のブユ相の特徴(種数は旧北区に次ぎ2位, 世界のブユ2,060種の約20%を占める. 他の5つの動物地理区と異なり古い属を欠く), 4)種分化に関わる形態形質の多様性(種分化は, 亜属, 種群別に, 成虫, 蛹, 幼虫の特定の形態形質の変異として捉えられる. 特に蛹の呼吸器官の変異では呼吸糸の数の減少化と肥大化の例が多い), 5)地理的分布の多様性(亜属, 種群の地理的分布は, 本地域の地形的・地史的特徴も反映した特異的パターンがみられる. 大陸型と島嶼型に大別され, 6分布型に分けられる). 熱帯アジアでは, まだ多くの未調査の地域が残されているので今後も形態形質に基づいた多くの新種が記載されることと思う. さらに, 比較的広い分布域を示す種については, 染色体や遺伝子解析による個体群レベルでの研究も始められており, 種の数は飛躍的に増える事が推測される. 疾病媒介の観点と並んで生物多様性の観点からもブユの基礎的研究は重要性が高まっており, 今後の展開が期待される.
ISSN:0424-7086