黒川由紀子 著「認知症と回想法」

「あとがき」の「高齢者は認知症であろうとなかろうと, 来る日も来る日も, 昨日も今日も明日も, たくさんの時をこつこつと積み重ねてきた存在である.」という言葉からも伺えるが, 黒川先生の高齢者に対する敬意や眼差しが本書の主たる基盤になっている. また, 長い引用になるが「認知症の心理療法を通じて思うことは, (心理的成熟とは)行ったり来たりしながら, 自らの強さも弱さも迷いもありのままに見つめ, 過度に自立を強調することもなく, 時として柔軟に周囲に依存し, あきらめずに日々を生き抜くプロセスのように思える. そのプロセスに半歩下がって慎み深く付き添っていく営みが認知症の人に対する心理療法と考...

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Published inこころの健康 Vol. 23; no. 2; pp. 81 - 82
Main Author 中島民恵子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本精神衛生学会 01.12.2008
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ISSN0912-6945

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Summary:「あとがき」の「高齢者は認知症であろうとなかろうと, 来る日も来る日も, 昨日も今日も明日も, たくさんの時をこつこつと積み重ねてきた存在である.」という言葉からも伺えるが, 黒川先生の高齢者に対する敬意や眼差しが本書の主たる基盤になっている. また, 長い引用になるが「認知症の心理療法を通じて思うことは, (心理的成熟とは)行ったり来たりしながら, 自らの強さも弱さも迷いもありのままに見つめ, 過度に自立を強調することもなく, 時として柔軟に周囲に依存し, あきらめずに日々を生き抜くプロセスのように思える. そのプロセスに半歩下がって慎み深く付き添っていく営みが認知症の人に対する心理療法と考える. (2章)」という言葉からも謙虚な姿勢が読み取れるし, 本書の主題である「回想法(ライフレビュー)」に通じる視点である. 「回想法」は, アメリカの精神科医ロバート・バトラーが提唱した高齢者に対する心理療法である. 高齢者の過去の人生史に焦点をあて, 良き聞き手とともに過去を紡ぎなおすことを通じ, 高齢者のアイデンティティの再構築や人生の統合をはかろうとする方法である.
ISSN:0912-6945