WHO「肥満と随伴する障害の予防における行動学的並びに社会文化的諸課題」についての専門家会議

生活習慣病対策の重要性については今さら強調するまでもないが, その予防にかかわる諸問題のうち, 最も対応が困難なものの代表例が肥満である. 肥満は糖尿病, 高血圧を始めとする多くの合併症の中核をなすものであり, 近年世界的にも増加の傾向が顕著にみられている. しかもこの肥満という現象は, 血液生化学的検査など専門的検診法によって始めて発見されるものとは異なり, 一般に顕在性で, 外観的に分かりやすいという特徴があるにもかかわらず, その予防が容易でない. 欧米諸国ではかなり以前から肥満と健康との関係に大きな関心を払い, 他の慢性疾患リスクの予防対策と同様に強力な予防措置を講じてきたが, これら...

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Published in栄養学雑誌 Vol. 57; no. 3; pp. 183 - 185
Main Author 小林修平
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本栄養改善学会 01.06.1999
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ISSN0021-5147

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Summary:生活習慣病対策の重要性については今さら強調するまでもないが, その予防にかかわる諸問題のうち, 最も対応が困難なものの代表例が肥満である. 肥満は糖尿病, 高血圧を始めとする多くの合併症の中核をなすものであり, 近年世界的にも増加の傾向が顕著にみられている. しかもこの肥満という現象は, 血液生化学的検査など専門的検診法によって始めて発見されるものとは異なり, 一般に顕在性で, 外観的に分かりやすいという特徴があるにもかかわらず, その予防が容易でない. 欧米諸国ではかなり以前から肥満と健康との関係に大きな関心を払い, 他の慢性疾患リスクの予防対策と同様に強力な予防措置を講じてきたが, これらの国々のうちの多くでは, 減少するどころかむしろ増加の一途をたどっているのが現状である. 一方, 発展途上にある諸国では, 急速な都市化とそれに伴う生活習慣の変化によって, 旧来の低栄養状態と, 近代型の疾病, 特に生活習慣病が共存する複雑な疾病構造を形成しつつある. これらの地域では恐らく, これまでの長い歴史の中で, 人々が飢餓状態にさらされる機会が特に多く, そのために遺伝的にもエネルギー利用効率の高い体質的特性をもってきていると推察され, そこへ流入した高脂肪の欧米型食生活と省力化による運動不足が, 急速な肥満の蔓延をもたらしたとの説が有力である. しかも, この長い飢餓の歴史のおかげで, 肥満をむしろ富と豊かさの象徴とみる感覚が人々の間に育っている状況すら一部の民族に存在するといわれ, 問題の複雑性に更に拍車をかけているといえる. この肥満という健康阻害因子の背景には明らかに, 遺伝的な素因と同時に, 複雑な行動科学的, 社会文化的背景があって, それらがその予防の難しさの大きな原因を形づくっているといってよい. 世界保健機関(WHO)では, 1992年の栄養に関するローマ会議以来, この肥満対策を世界的に挑戦すべき問題としてとらえ, 国際的な専門家グループ(International Obesity Taskforce)を組織して有効な対応法を模索するとともに, さまざまな形でワークショップの開催やキャンペーンを繰り広げてきた. 今回の専門家会議(WHO Consultation on Behavioural Aspects of Preventing Obesity and its Associated Problems)は, その一環として開催されたものである.
ISSN:0021-5147