重症呼吸不全患者に対して短時間の覚醒下腹臥位療法が低酸素血症の改善に有効であった一例: 症例報告

【目的】 ARDS診療ガイドライン2021では、ARDS患者に対する腹臥位療法は、重度の低酸素血症に対する治療法の1つとされている。また、腹臥位療法の報告は多数見受けられるが、経口挿管患者における覚醒下腹臥位療法(awake prone positioning:以下、APP)、また短時間の実施に関する報告は少ない。今回、高度側弯症の既往がある慢性Ⅱ型呼吸不全患者が急性呼吸不全を呈し、APPを実施した。長時間のAPPが困難であったため短時間での対応となったが、低酸素血症の改善に有効であった可能性があり、考察を交えて報告する。【症例紹介】 症例は60代女性、入院前ADL自立で特に問題はなかった。思...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2023; p. 84
Main Authors 島袋 陽菜, 高良 光, 當山 大樹, 比嘉 宣光
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2023
Kyushu Physical Therapy Association
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2023.0_84

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Summary:【目的】 ARDS診療ガイドライン2021では、ARDS患者に対する腹臥位療法は、重度の低酸素血症に対する治療法の1つとされている。また、腹臥位療法の報告は多数見受けられるが、経口挿管患者における覚醒下腹臥位療法(awake prone positioning:以下、APP)、また短時間の実施に関する報告は少ない。今回、高度側弯症の既往がある慢性Ⅱ型呼吸不全患者が急性呼吸不全を呈し、APPを実施した。長時間のAPPが困難であったため短時間での対応となったが、低酸素血症の改善に有効であった可能性があり、考察を交えて報告する。【症例紹介】 症例は60代女性、入院前ADL自立で特に問題はなかった。思春期突発性側弯症のため10代でHarrington rod固定術を受け、半年後にrodを抜去する予定であったが、金銭的な理由から手術を受けられなかった。固定術後は呼吸器症状なく経過していたが、入院約1年前から呼吸困難が出現し、プレートの歪み、左下肢痺れ増悪、呼吸困難を主訴に受診。SpO2 70~75%と低値であったため入院となった。感染症合併も疑われたため、第1病日より抗菌薬開始となった。【経過】 第1病日よりNPPV開始され、第4病日に理学療法開始となった。呼吸状態の悪化が予測されたため、第5病日にICU入室。ICU入室時はP/F比244であったが、第12病日にP/F比75と悪化したため、挿管・人工呼吸器管理となった。P/F比改善せず、第16病日に主治医から腹臥位療法の指示があり、腹臥位療法開始となった。なお、本症例は人工呼吸器管理後も鎮静薬は使用しておらず主治医方針でAPPの対応となった。覚醒下であったため、本人からの訴えを参考にポジショニングを行い、短時間(2~5.5時間/day)のAPPを1週間実施した。APP以外の時間帯については、前傾側臥位やヘッドアップを実施した。第20病日にP/F比104、第23病日にP/F比222と改善を認め、APP終了となった。第23病日以降は、端座位や立位など離床を開始した。第34病日に気管切開術施行、第35病日ICU退室となった。その後、人工呼吸器の終日離脱は困難であったが、第83病日より理学療法介入時のみ人工鼻へ変更し、歩行練習を開始した。第124病日に有料老人ホームへ退院となった。【考察】 症例報告レベルでは、腹臥位療法開始2時間でP/F比の改善を認めたとの報告はあるが、報告数は限られている。本症例は、短時間のAPPを1週間実施し、P/F比の改善を認めた。そのため短時間の腹臥位療法も有効である可能性が示唆された。なお、有効性の解釈に対する限界点としては、腹臥位療法以外の時間帯に前傾側臥位などのポジショニングを積極的に行ったことや、抗菌薬が症状改善に寄与した可能性も考えられた。【結論】 短時間のAPPは、重症呼吸不全患者の酸素化を改善する可能性が示唆された。
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2023.0_84