外科臨床の変遷
外科が現在抱えている問題を提示しながら,外科の面白さを伝えられたらと思ってい ます。大きな課題としては外科医不足があります。医師不足,特に小児科医,産婦人科医 の不足がマスコミ等をにぎわせていますが,外科医の減少も深刻です。外科系(一般外 科,心臓外科,呼吸器外科,小児外科)はこの8年間で約2.1%,一般外科だけみると 6%と大幅な減少です。(ちなみに産婦人科は1.1%の減少,小児科は6.5%の増加です) 外科学の進歩は周辺技術,科学の進歩に支えられているといっても過言ではありませ ん。麻酔学,周術期の管理,消毒法を含めた微生物学,画像診断学,薬学,工学技術等の 進歩が手術術式そのものの発展,...
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| Published in | Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 58; p. 1 |
|---|---|
| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
2009
一般社団法人 日本農村医学会 |
| Subjects | |
| Online Access | Get full text |
| ISSN | 1880-1749 1880-1730 |
| DOI | 10.14879/nnigss.58.0.1.0 |
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| Summary: | 外科が現在抱えている問題を提示しながら,外科の面白さを伝えられたらと思ってい
ます。大きな課題としては外科医不足があります。医師不足,特に小児科医,産婦人科医
の不足がマスコミ等をにぎわせていますが,外科医の減少も深刻です。外科系(一般外
科,心臓外科,呼吸器外科,小児外科)はこの8年間で約2.1%,一般外科だけみると
6%と大幅な減少です。(ちなみに産婦人科は1.1%の減少,小児科は6.5%の増加です)
外科学の進歩は周辺技術,科学の進歩に支えられているといっても過言ではありませ
ん。麻酔学,周術期の管理,消毒法を含めた微生物学,画像診断学,薬学,工学技術等の
進歩が手術術式そのものの発展,術後成績の改善を促しました。そして術式も時代ととも
に変わってきました。1960年代から1970年代にかけては拡大手術の時代でした。乳癌を例
にとりますと大胸筋,小胸筋までも切除してしまう胸筋合併乳房切除,拡大乳房切除術が
大勢を占めていました。しかし1980年代に入りますと胸筋温存そして乳房温存手術という
ように,機能,美容にも考慮する術式が大勢を占めてきました。この流れは現在も続いて
います。リンパ節郭清も同じ傾向です。また乳癌の例になりますが,闇雲な腋窩リンパ節
を郭清する時代から,ナヴィゲイションサージェリーといいわれる癌細胞が最初に到着す
るであろうリンパ節をアイソトープ等を利用して同定し,そのリンパ節への癌の転移の有
無を見極めて,リンパ節郭清の要否を決める時代となりました。この技術は最近では乳癌
ばかりではなく,消化管癌の手術にも応用されるようになりました。
そしてこの20年間で外科手術は革命といってよいほどの劇的な変化をとげました。開腹
または開胸して実際に肉眼で見,観察し,臓器を触れながら行うという手術の常識を覆し
た鏡視下手術の導入です。1987年Mouret によって腹腔鏡下胆嚢切除術が行われました。
術後の痛みの少なさ,回復の早さ,早期の社会復帰が可能である等の低浸襲性が受け入れ
られ,世界中にひろまりました。これには医療機器の進歩も貢献しました。細くて視野が
広くて明るい光学視管,光源装置,モニターの発達,超音波凝固切開装置の開発などをう
けて鏡視下手術の適応は拡大していき,現在では一般外科手術のほぼあらゆる分野で導入
されてきています。そけいヘルニア,虫垂切除,噴門形成術,脾臓切除術,胃切除術,大
腸切除術,食道癌切除術,肝切除術等です。今後未来に向けては,遠隔手術の導入,ロ
ボットの導入等が考えられます。また遺伝子学の進歩も外科治療に大きく貢献しています。
1例を挙げますと甲状腺髄様癌はC 細胞由来の癌ですが,1965年以降,
常染色体優性遺伝,多発性内分泌腫瘍2A,2B,家族性甲状腺髄様癌などに分類さ
れることが明らかになりました。この腫瘍はDNA 検査による保因者診断が可能とな
り,1994年にはDNA 診断による保因者に対する予防的甲状腺手術が提唱されました。
外科学の将来を時代を担う人材の育成が急務であり,そのための教育システム,手技の
訓練設備と施設の整備等が急がれます。外科学に対する私の思いを伝えることがで
きるような講演にしたいと思います。 |
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| ISSN: | 1880-1749 1880-1730 |
| DOI: | 10.14879/nnigss.58.0.1.0 |