病いと癒し
現代医学において「癒し」という用語が用いられることは希である. 専ら「治療」という言葉が使われる. 治療と癒しの違いは何かというと働きかける対象が異なるということである. すなわち「治療」の対象が客観的な生物学的過程である「病気」(Disease)であるのに対して「癒し」の対象は主観的な心理, 社会的過程である「病い」(Illness)やもっと広い意味に取れば「苦悩」(Suffering)ということになる. 「癒し」で最も大切なことは相手の主観的な部分に働きかけるということである. 病気は一面からみると生物学的な現象にすぎないが, 病者にとっては単なる生物学的現象ではなく「意味」を持った主観的...
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| Published in | 日本鍼灸良導絡医学会誌 Vol. 27; no. 4; p. 29 |
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| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
日本良導絡神経学会
01.09.1999
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| Online Access | Get full text |
| ISSN | 0286-1631 |
Cover
| Summary: | 現代医学において「癒し」という用語が用いられることは希である. 専ら「治療」という言葉が使われる. 治療と癒しの違いは何かというと働きかける対象が異なるということである. すなわち「治療」の対象が客観的な生物学的過程である「病気」(Disease)であるのに対して「癒し」の対象は主観的な心理, 社会的過程である「病い」(Illness)やもっと広い意味に取れば「苦悩」(Suffering)ということになる. 「癒し」で最も大切なことは相手の主観的な部分に働きかけるということである. 病気は一面からみると生物学的な現象にすぎないが, 病者にとっては単なる生物学的現象ではなく「意味」を持った主観的な出来事である. 従って, 治療者は生物学的な見方以外に病者の病気に対して持つ「意味」を常に考慮しなければ医療は一方的で実りの少ないものとなるだろう. 病気は社会・文化・心理的など多方面的な意味を持っている. 医療人類学者のA・クラインマンは説明モデルという考え方で病者側の病気に対する考え方に治療者が注意を払うことが治療的であるということを提唱した. 説明モデルはまだ病気の「意味」を充分表わすものではないが「意味」を模索する最初の試みであろう. 心療内科の領域では説明モデルを治療者が考慮することが治療上効果的だが, 同様のことは他の科でも言える. どの科においても病気の社会・文化心理的意味すなわち説明モデルを知ることが治療に有効であると考えられる. しかし説明モデルをどんな形で臨床家が応用出来るかという疑問がある. 今回, 健康人87人に対して, 病気の説明モデルを調査し帰属理論的な見地から整理してみた. こうすることによって説明モデルをよく治療的に生かすことが出来る可能性がある. |
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| ISSN: | 0286-1631 |