塩基配列を通してみた血液型

血液型をコードする遺伝子は, 1990年代に入って次々とクローニングされ, 多くの場合, それらの遺伝子内に存在するsingle nucleotide polymorphisms(SNPs)がそれぞれの多形性抗原を決定づけている. それらが明らかになる過程で, 血液型を遺伝子の構造や塩基配列を通して眺めたとき, 血清学的, あるいは遺伝学的なデータを蓄積しておくことの重要性が改めて再認識された. とりわけ, Rh血液型は, 47もの抗原を持ち, 多くのvariantが存在していることが知られていたが, RH座の特徴的な構造, 即ち, 祖先遺伝子と同じ位置にあるRHCE遺伝子と, そのコピー遺伝...

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Published in日本輸血学会雑誌 Vol. 52; no. 1; p. 84
Main Author 岩本禎彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血学会 10.03.2006
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ISSN0546-1448

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Summary:血液型をコードする遺伝子は, 1990年代に入って次々とクローニングされ, 多くの場合, それらの遺伝子内に存在するsingle nucleotide polymorphisms(SNPs)がそれぞれの多形性抗原を決定づけている. それらが明らかになる過程で, 血液型を遺伝子の構造や塩基配列を通して眺めたとき, 血清学的, あるいは遺伝学的なデータを蓄積しておくことの重要性が改めて再認識された. とりわけ, Rh血液型は, 47もの抗原を持ち, 多くのvariantが存在していることが知られていたが, RH座の特徴的な構造, 即ち, 祖先遺伝子と同じ位置にあるRHCE遺伝子と, そのコピー遺伝子であるRHD遺伝子がSMPI遺伝子を挟んで互いの3'末端を向き合わせて存在していることによって, 2つの遺伝子間での多彩な組換えを可能にし, このような複雑な血液型システムに結びついたものと理解できた. また, Rh血液型抗原の発現に深く係わる遺伝子座としてRH以外の座の存在も, この血液型をさらに複雑なものにしている. RhnullやRhmodにかかわる遺伝子としてRHAGが発見され, そのSNPsがRh抗原の発現と関係していることが明らかにされた. さらに, 温式溶血性貧血の自己抗体が認識する自己抗原の多くはRhに関連していることを詳細な血清学的解析は示唆していたが, リコンビナントRh抗原を発現する細胞パネルを作ることによってそれを裏付けることが可能になった. ABO抗原は分化抗原としても重要であり, ガンの悪性度との関連も示されていたが, A型の固体より樹立された大腸癌由来の細胞株を調べることで, 浸潤性の強い細胞は, A抗原を失っており, ABO遺伝子の発現調節の変化が抗原消失に関連していることが明らかになった. また, A型とB型アリルの違いを決定づけている7SNPsは, ラットのオーソログ遺伝子を同定して遺伝子構造を調べることで, 本来は, それらが別々の遺伝子として存在していたことの名残として刻み込まれている可能性が示唆された. このように, 血液型に関する興味深い事実のメカニズムは少しずつ明らかになってきており, 今後も, 血清学や遺伝学と協調して解析を進めることで, 更なる発見がもたらされるものと期待される.
ISSN:0546-1448