モルヒネによって誘発される脊髄虚血後の痙性対麻痺におけるGABAニューロンの関与

大動脈瘤や大動脈外傷に対する手術時に行う大動脈遮断は脊髄血流を低下させ, 術後の重篤な合併症である対麻痺の原因となるが, 明らかな機序は解明されていない. 一方, くも膜下モルヒネ投与は一般的な鎮痛方法として認知されている. ところが我々はラット脊髄虚血モデルにおいて, 下肢の対麻痺を起こさない程度の短時間の大動脈遮断の後にモルヒネをくも膜下投与すると一過性の痙性対麻痺を生じ, さらにモルヒネを繰り返し投与すると非可逆性の対麻痺となることをみいだした. われわれはモルヒネが運動神経の活動を制御している介在ニューロンを抑制し, 運動ニューロンの脱抑制を起こすために痙性対麻痺を起こすという仮説をた...

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Published in蘇生 Vol. 17; no. 3; p. 214
Main Authors 中村清哉, 垣花脩, 平良豊, 奥田佳朗
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.09.1998
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ISSN0288-4348

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Summary:大動脈瘤や大動脈外傷に対する手術時に行う大動脈遮断は脊髄血流を低下させ, 術後の重篤な合併症である対麻痺の原因となるが, 明らかな機序は解明されていない. 一方, くも膜下モルヒネ投与は一般的な鎮痛方法として認知されている. ところが我々はラット脊髄虚血モデルにおいて, 下肢の対麻痺を起こさない程度の短時間の大動脈遮断の後にモルヒネをくも膜下投与すると一過性の痙性対麻痺を生じ, さらにモルヒネを繰り返し投与すると非可逆性の対麻痺となることをみいだした. われわれはモルヒネが運動神経の活動を制御している介在ニューロンを抑制し, 運動ニューロンの脱抑制を起こすために痙性対麻痺を起こすという仮説をたて, 介在ニューロンの主な神経伝達物質であるGABAに着目し, 以下の実験を行った. [方法]ハロセン麻酔下にラットの大槽を切開し, くも膜下腔に薬物投与用のカテーテル(PE-5)(Yaksh and Rudy, 1976)を挿入する. ハロセン麻酔下に左大腿動脈より胸部下行大動脈(DAO)に挿入した2F Fogartyカテーテルの先端バルーンを膨らませることによりDAOを遮断し, さらに左内頚動脈からの脱血による低血圧を併用することで脊髄虚血を作成する. 大動脈遮断時間は後肢運動機能障害をきたさない6分間とし, 遮断解除後は動脈内カテーテルをすべて抜去し, 麻酔から回復させる. 虚血再灌流後30分後にモルヒネ30μlと同時にバクロフェン(GABA-B agonist)3, 10, 30μg, ムシモール(GABA-A agonist)0.3, 1, 3μgまたは生理食塩水10μlをくも膜下投与し, 後肢運動機能を72時間観察した. [結果, 考察]GABA作動薬投与による明らかな後肢運動障害の改善はみられなかった. しかしGABA作動薬投与後, 痙性麻痺でなく, 弛緩性麻痺が出現することから, GABA作動薬には至適投与量が存在する可能性が考えられた. また, モルヒネによる痙性麻痺の出現にはGABAニューロン以外のシステムの関与も考えられた.
ISSN:0288-4348