血管の太さを制御する遺伝子の決定とその分化機構の解明

血管はほとんどすべての組織に存在し, ヒトの場合, 全長約10万キロメートルあるといわれている. これらの血管は, 大動脈などの太い血管から毛細血管などの細い血管まで, 様々な大きさのものが存在する. しかしながら, これらの大きさの違う血管がどのようにして生じるのか, そのメカニズムは依然として明らかになっていない. そこで, 本研究では血管の大きさがどのようにして決まっていくのか, そのメカニズムを明らかにすることを目的に, 血管の大きさを制御する遺伝子の探索を行い, それらの遺伝子の働きをアフリカツメガエルを用いて検討した. 血管の大きさに関わる遺伝子の探索は, まず, ヒト臍帯静脈血管...

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 3; no. 4; p. 223
Main Author 藤原正和
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 01.10.2007
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ISSN1349-8975

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Abstract 血管はほとんどすべての組織に存在し, ヒトの場合, 全長約10万キロメートルあるといわれている. これらの血管は, 大動脈などの太い血管から毛細血管などの細い血管まで, 様々な大きさのものが存在する. しかしながら, これらの大きさの違う血管がどのようにして生じるのか, そのメカニズムは依然として明らかになっていない. そこで, 本研究では血管の大きさがどのようにして決まっていくのか, そのメカニズムを明らかにすることを目的に, 血管の大きさを制御する遺伝子の探索を行い, それらの遺伝子の働きをアフリカツメガエルを用いて検討した. 血管の大きさに関わる遺伝子の探索は, まず, ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial cells-HUVEC)から太い血管と細い血管のモデルを作製することから始めた. これらの血管構造は, デキストランビーズに接着させたHUVECをフィブリンゲル中で培養し, 異なる濃度のVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)で処理することによって形成させた. 高濃度のVEGF(10ng/mL)を処理した群では分岐の少ない太い血管が, 低濃度のVEGF(2ng/mL)を処理した群では分岐の多い細い血管が形成された. 次に, この大小2つの血管からtotal RNAを抽出し, マイクロアレイによって継時的に遺伝子発現の比較を行った. その結果, 数十の遺伝子が血管の太さに関与する候補として挙げられた. 中でもDown Syndrome Critical Region 1(DSCR1)は太い血管でより強い発現を示し, 十分な発現量の違いが細い血管との間でみられた. DSCR1は脱リン酸化酵素であるcalcineurinを阻害して多機能転写因子Nuclear Factor of Activated T Cells(NFAT)の転写活性を抑制する. このcalcineurinシグナル伝達系はリンパ球の分化増殖, 心形成, 心肥大, 神経誘導などを制御しており, DSCR1が血管の太さの形成に関与している可能性が示唆された. そこで, DSCR1の血管形成における働きをアフリカツメガエルを用いて検討した. アフリカツメガエルのオタマジャクシは透明な体をもち, 血管の観察が容易であることから, マイクロアンジオグラフィーを行うには最適のモデル動物である. DSCR1 cRNAをアフリカツメガエルの受精卵に導入し, ステージ47における血管を観察したところ, 体節の間を流れるintersomitic vesselsから体の表面に向かって分岐する毛細血管の数が著しく減少していることが分かった. In vitroにおいてDSCR1が血管内皮細胞の増殖や遊走に関与することから, 発現させたDSCR1がin vivoにおいても血管内皮細胞の増殖や遊走を阻害し, 本来形成されるはずの細い血管の形成を阻害していることが予想された. 今回の結果から, DSCR1が1)培養細胞レベルでは分岐の少ない太い血管で強く発現していること, 2)個体レベルでは毛細血管の分岐を一部の領域で阻害することが明らかになった. これらのことから, DSCR1が太さとつながりがある血管の分岐を負に制御していることが考えられた. 今後は, VEGFによって発現が誘導されたDSCR1がどのような実行因子と結びつき血管の形態を決定しているのか, 例えばNFATなどの転写因子を介して血管の大きさを決定していくのか, そのメカニズムの一部を明らかにしていきたい. また, 同時に, 血管の太さの制御に関わる次の候補遺伝子の解析も行っていく予定である.
AbstractList 血管はほとんどすべての組織に存在し, ヒトの場合, 全長約10万キロメートルあるといわれている. これらの血管は, 大動脈などの太い血管から毛細血管などの細い血管まで, 様々な大きさのものが存在する. しかしながら, これらの大きさの違う血管がどのようにして生じるのか, そのメカニズムは依然として明らかになっていない. そこで, 本研究では血管の大きさがどのようにして決まっていくのか, そのメカニズムを明らかにすることを目的に, 血管の大きさを制御する遺伝子の探索を行い, それらの遺伝子の働きをアフリカツメガエルを用いて検討した. 血管の大きさに関わる遺伝子の探索は, まず, ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial cells-HUVEC)から太い血管と細い血管のモデルを作製することから始めた. これらの血管構造は, デキストランビーズに接着させたHUVECをフィブリンゲル中で培養し, 異なる濃度のVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)で処理することによって形成させた. 高濃度のVEGF(10ng/mL)を処理した群では分岐の少ない太い血管が, 低濃度のVEGF(2ng/mL)を処理した群では分岐の多い細い血管が形成された. 次に, この大小2つの血管からtotal RNAを抽出し, マイクロアレイによって継時的に遺伝子発現の比較を行った. その結果, 数十の遺伝子が血管の太さに関与する候補として挙げられた. 中でもDown Syndrome Critical Region 1(DSCR1)は太い血管でより強い発現を示し, 十分な発現量の違いが細い血管との間でみられた. DSCR1は脱リン酸化酵素であるcalcineurinを阻害して多機能転写因子Nuclear Factor of Activated T Cells(NFAT)の転写活性を抑制する. このcalcineurinシグナル伝達系はリンパ球の分化増殖, 心形成, 心肥大, 神経誘導などを制御しており, DSCR1が血管の太さの形成に関与している可能性が示唆された. そこで, DSCR1の血管形成における働きをアフリカツメガエルを用いて検討した. アフリカツメガエルのオタマジャクシは透明な体をもち, 血管の観察が容易であることから, マイクロアンジオグラフィーを行うには最適のモデル動物である. DSCR1 cRNAをアフリカツメガエルの受精卵に導入し, ステージ47における血管を観察したところ, 体節の間を流れるintersomitic vesselsから体の表面に向かって分岐する毛細血管の数が著しく減少していることが分かった. In vitroにおいてDSCR1が血管内皮細胞の増殖や遊走に関与することから, 発現させたDSCR1がin vivoにおいても血管内皮細胞の増殖や遊走を阻害し, 本来形成されるはずの細い血管の形成を阻害していることが予想された. 今回の結果から, DSCR1が1)培養細胞レベルでは分岐の少ない太い血管で強く発現していること, 2)個体レベルでは毛細血管の分岐を一部の領域で阻害することが明らかになった. これらのことから, DSCR1が太さとつながりがある血管の分岐を負に制御していることが考えられた. 今後は, VEGFによって発現が誘導されたDSCR1がどのような実行因子と結びつき血管の形態を決定しているのか, 例えばNFATなどの転写因子を介して血管の大きさを決定していくのか, そのメカニズムの一部を明らかにしていきたい. また, 同時に, 血管の太さの制御に関わる次の候補遺伝子の解析も行っていく予定である.
Author 藤原正和
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