脳虚血後患者の生活と心の再生をめざして

意識障害は脳性の一次障害だけでなく, 循環器・呼吸器系疾患, 代謝障害, 各種の中毒症など, さまざまな原因によって生ずる. 原疾患に対する積極的な治療にもかかわらず, 意識障害が遷延化した場合の治療と看護については, 未だその確立をみていない. とりわけ, 医学的に「意識の回復はきわめて困難である」と判断された患者については, 看護活動も生命維持や身体機能の調整といった消極的なものになりがちである. 高度医療が国民にもたらした恩恵には計り知れないものがある反面, 救命や延命と引き換えにしばしば不本意な生き方, あるいは理不尽な死に方を人々に強いることがある. 治療法が確立していない遷延性意識...

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Published in蘇生 Vol. 20; no. 3; p. 246
Main Author 紙屋克子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 12.09.2001
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ISSN0288-4348

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Summary:意識障害は脳性の一次障害だけでなく, 循環器・呼吸器系疾患, 代謝障害, 各種の中毒症など, さまざまな原因によって生ずる. 原疾患に対する積極的な治療にもかかわらず, 意識障害が遷延化した場合の治療と看護については, 未だその確立をみていない. とりわけ, 医学的に「意識の回復はきわめて困難である」と判断された患者については, 看護活動も生命維持や身体機能の調整といった消極的なものになりがちである. 高度医療が国民にもたらした恩恵には計り知れないものがある反面, 救命や延命と引き換えにしばしば不本意な生き方, あるいは理不尽な死に方を人々に強いることがある. 治療法が確立していない遷延性意識障害患者のおかれている状況も, ある意味では「不本意な生」を生かされている人といえるかもしれない. しかしながら意識障害の原因, 経過にかかわらず, 看護者の前に患者が存在する限りは, 彼らにふさわしい看護が実践されるよう努めなければならない. 意識障害患者の看護の基本は, 脳の学習性, 可塑性, 代償性に期待し, 患者の状態に適した刺激を提供することで学習効果を高め, 生活行動を獲得させることにある. もし, 人が自らの意思と能力で生命と生活をコントロールできなくなったとき, 社会がその人の人間としての尊厳を損なうことなく, 生命と生活のありようを支援してゆく手段とシステムをどのように準備しているかということは, まさに, その国の文化が到達したレベルを表すものと考えられる. 具体的には社会的弱者である子供や老人, 病者や障害者の基本的人権と生活がどのように護られているかが問われている. 脳血管系の疾患によって意識障害が遷延化した患者に生活行動を獲得させ, 障害を克服してゆく看護の方法とその成果, 今後の課題について私見を述べる.
ISSN:0288-4348