胃粘膜防御とピロリ菌感染
I はじめに 粘膜表面を覆っている粘液は, 粘膜防御において細菌, ウイルス等病原性微生物に対してバリアーとして働く高分子物質である. すなわち多くの微生物に対して粘液は, 物理的な障壁となり体内への進入を阻止する. さらに胃粘液は, 摂取した食物の消化を助ける作用や胃酸, 消化酵素から自己の組織, 細胞が障害を受けないよう保護している1). 胃生検より寒天平板を用いて培養を行うと, 種々の細菌がコロニーとして分離されるが, 実際にヒトの胃粘液および粘膜上を生息域としている細菌はHelicobacter Pylori(H. pylori)のみである. H. pyloriは胃粘膜に感染, 定着し...
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| Published in | 信州医学雑誌 Vol. 54; no. 5; pp. 249 - 256 |
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| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
信州医学会
2006
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| Subjects | |
| Online Access | Get full text |
| ISSN | 0037-3826 1884-6580 |
| DOI | 10.11441/shinshumedj.54.249 |
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| Summary: | I はじめに 粘膜表面を覆っている粘液は, 粘膜防御において細菌, ウイルス等病原性微生物に対してバリアーとして働く高分子物質である. すなわち多くの微生物に対して粘液は, 物理的な障壁となり体内への進入を阻止する. さらに胃粘液は, 摂取した食物の消化を助ける作用や胃酸, 消化酵素から自己の組織, 細胞が障害を受けないよう保護している1). 胃生検より寒天平板を用いて培養を行うと, 種々の細菌がコロニーとして分離されるが, 実際にヒトの胃粘液および粘膜上を生息域としている細菌はHelicobacter Pylori(H. pylori)のみである. H. pyloriは胃粘膜に感染, 定着して, 胃炎や慢性消化性潰瘍, さらには胃癌や胃悪性リンパ腫の発症に関与している. 一般的にH. pyloriは乳幼児期に感染し, 除菌等を行わない限り一生涯を通じて持続感染するが, 多くの場合, 重篤な症状には至らない. このことは, H. pyloriに対して何らかの胃粘膜防御機構が存在することを窺わせる. 本稿では最初にH. pyloriの病原因子について概説し, 次いで病態形成に重要な胃粘膜上皮との接着について述べる. 最後に胃粘膜を構成する腺粘液細胞から分泌される腺粘液細胞型粘液が持つH. pyloriに対する防御因子としての意義について本学での研究成果を紹介する. |
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| ISSN: | 0037-3826 1884-6580 |
| DOI: | 10.11441/shinshumedj.54.249 |