気道系の再生(第25回日本気管支学会総会)

呼吸器系の機能障害を有する患者数は年々増加してきている. それに対し現在, 再生組織工学の発展が著しいが, 肺の再生ははなはだ難しいと考えられている. しかし, 気管のみならず, 肺実質の再生医学も急速な進歩を見せている. 今回, 気道系についての組織工学の現状と, 肺実質の再生として, 慢性びまん性肺疾患の肺再構築としての再生について, 近年の研究を中心に述べる. 20世紀後半に始まった人工気管の歴史は, 気道が外界と接するため感染を受けやすいなどの理由で当初は困難を極めた. しかし, 人工材料の開発などで, 近年著しい進歩を遂げ, 臨床応用も可能な段階になっている. 人工気管の成功例を検討...

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Published inThe Journal of the Japan Society for Respiratory Endoscopy Vol. 24; no. 3; p. 144
Main Authors 高橋, 充, 中村, 達雄, 鳥羽, 紀成, 清水, 慶彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会 2002
日本気管支学会
The Japan Society for Respiratory Endoscopy
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ISSN0287-2137
2186-0149
DOI10.18907/jjsre.24.3_144

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Summary:呼吸器系の機能障害を有する患者数は年々増加してきている. それに対し現在, 再生組織工学の発展が著しいが, 肺の再生ははなはだ難しいと考えられている. しかし, 気管のみならず, 肺実質の再生医学も急速な進歩を見せている. 今回, 気道系についての組織工学の現状と, 肺実質の再生として, 慢性びまん性肺疾患の肺再構築としての再生について, 近年の研究を中心に述べる. 20世紀後半に始まった人工気管の歴史は, 気道が外界と接するため感染を受けやすいなどの理由で当初は困難を極めた. しかし, 人工材料の開発などで, 近年著しい進歩を遂げ, 臨床応用も可能な段階になっている. 人工気管の成功例を検討してみると, 生体本来がもつ再生能力を引き出す方向で, それが計画されたものであるということが重要な意味をもつ. 即ち, 人工気管に用いる場合に細胞増殖に十分なスペース(フィールド)を持つコラーゲン不織布層からなる三次元立体構造を取り入れることにより, 人工気管の長期安全性と正常に近い気管を再生しうるに至っている. 気管分岐部でも術後6ヶ月時に全例について, 置換した気道は狭窄も裂開も認めず, かつ内面は円滑で, 置換部位は組織学的に繊毛円柱上皮と繊毛のない扁平上皮になっており, 臨床応用可能な段階に達している. その他, 同種気管を用いてdetergent法により軟骨以外の細胞をすべて除去することによる免疫原性をなくした人工気管も開発され, 極めて良好な結果が得られている. 肺再生の研究は極めて少ない. 最近, 我々は肺内に埋め込んだコラーゲンスポンジを足場とした肺組織再生を試みている. 足場と周囲肺組織の境界に管状構造が出現し, それが正常肺胞組織中につながった. この管状構造を形成する細胞は, 免疫染色にてクララ細胞か或いはII型肺胞細胞であることが強く示唆されている. この報告は, in vivoでのin situ tissue engineeringの今後の発展を強く示している. 従来, 治療法のなかった慢性びまん性肺疾患, 即ち, 肺線維症, 肺気腫や肺高血圧症などに対する再生医療的手法による治療法が研究され始めている. 肺線維症の治療は, HGFなどのサイトカインや各種のMMPを効果的に投与することにより, 線維化した肺胞構造の再構築の研究が現在進んでいる. 閉鎖性肺疾患(COPD)の代表的疾患である肺気腫は, サイトカインの投与或いはコントロールといった治療の標的として新たな試みが現在, 研究されている. さらには, 血管増殖因子の投与や, 骨髄内幹細胞の投与による治療が試みられている. 肺高血圧症では, 脳動脈硬化症と同様に骨髄内に血管上皮細胞の血管内導入により改善される可能性があり, 検討が進んでいる. 再生医療はともすればES細胞などを用いた移植の代替法と考えられがちであるが, その実態は全く別物であり, 修理によって機能を再生させうることを実証したいと考えて, 我々の研究チームも肺, 気道に対しても新しい試みを進めているのであり, 近い将来, 臨床に応用され始めるであろうと考えている.
ISSN:0287-2137
2186-0149
DOI:10.18907/jjsre.24.3_144