関節の潤滑機構と人工関節のゆるみ

身体の機能は, 底知れないほど無限で, 小宇宙にも例えられている. 多くの臓器は, 正常動作時には痛みや症状も無く沈黙していて, その存在を意識することも殆どない. 四肢の関節も同様で, 運動機能を司る最も重要な器官であるが, over useによる関節痛, 捻挫などの外傷性疼痛をきたす程度にしか関節の存在を意識しないのが一般的である. しかし, 乳児期よりの股関節形成不全, 小児期よりの骨端症などによる二次的関節症, リウマチ, 加齢に伴う退行性変性により荷重関節の重度の痛みで悩む人も多く, 疼痛寛解には人工関節への置換が大きな福音をもたらしてきた. 40年前に人工股関節の臨床応用が軌道にの...

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Published inJournal of Nippon Medical School Vol. 68; no. 1; p. 91
Main Author 伊藤, 博元
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 2001
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ISSN1345-4676
1347-3409
DOI10.1272/jnms.68.91

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Summary:身体の機能は, 底知れないほど無限で, 小宇宙にも例えられている. 多くの臓器は, 正常動作時には痛みや症状も無く沈黙していて, その存在を意識することも殆どない. 四肢の関節も同様で, 運動機能を司る最も重要な器官であるが, over useによる関節痛, 捻挫などの外傷性疼痛をきたす程度にしか関節の存在を意識しないのが一般的である. しかし, 乳児期よりの股関節形成不全, 小児期よりの骨端症などによる二次的関節症, リウマチ, 加齢に伴う退行性変性により荷重関節の重度の痛みで悩む人も多く, 疼痛寛解には人工関節への置換が大きな福音をもたらしてきた. 40年前に人工股関節の臨床応用が軌道にのり, 多くの患者を救ってはきたが, 当初より危惧されていた人工関節の弛みが, 異なった形で再び問題視されている. 関節の機能は, とりもなおさず関節軟骨そのものと言っても差し支えない. 関節軟骨の機能は, 関節の運動と力の分散であり, 関節に加えられた衝撃荷重を和らげ分散して軟骨下骨に伝達して, 骨を守る機能がある. また, 長時間にわたる起立時には, 粘弾性変形を示して様々な関節運動に応じて, 円滑な関節運動を可能にしている. このような緩衝作用と, 円滑な運動機能を有する関節軟骨であるが, 加齢につれて関節機能の低下が生じ, 変形性関節症などが増加するのも確かである. 弾性率が低く, わずか3mm前後の関節軟骨が, 約70~80年の酷使に耐えるのは関節軟骨の持つ潤滑機構にあると考えられている.
ISSN:1345-4676
1347-3409
DOI:10.1272/jnms.68.91