原田憲明発表へのコメントと議論の概要(コロキウム報告)
本セッションの報告は, 行動療法の経験はまだ浅いが, 森田療法の経験の長いベテランの臨床心理士によるものであった. 症例は洗浄強迫, 確認強迫が主体の強迫性障害と診断された中年の会社員で, 抑うつ状態を呈して職場を休んでいた. 曝露反応妨害法を中心にした治療で, 強迫症状は改善し職場に復帰したが, 抑うつ症状のために再び仕事を休みはじめているというところまでが発表された. 症例報告に対してのフロアの反応は, 大きく分けると, この症例のうつ状態をどう捉えたかということと, 実際の曝露反応妨害法の基本である症状の把握に関するものであったので, その2点から考えてみたい. まず, 本症例の抑うつに...
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Published in | 行動療法研究 Vol. 33; no. 2; p. 203 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
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一般社団法人 日本認知・行動療法学会
30.09.2007
日本行動療法学会 Japanese Association for Behavioral and Cognitive Therapies( JABCT ) |
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ISSN | 0910-6529 2424-2594 |
DOI | 10.24468/jjbt.33.2_203 |
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Summary: | 本セッションの報告は, 行動療法の経験はまだ浅いが, 森田療法の経験の長いベテランの臨床心理士によるものであった. 症例は洗浄強迫, 確認強迫が主体の強迫性障害と診断された中年の会社員で, 抑うつ状態を呈して職場を休んでいた. 曝露反応妨害法を中心にした治療で, 強迫症状は改善し職場に復帰したが, 抑うつ症状のために再び仕事を休みはじめているというところまでが発表された. 症例報告に対してのフロアの反応は, 大きく分けると, この症例のうつ状態をどう捉えたかということと, 実際の曝露反応妨害法の基本である症状の把握に関するものであったので, その2点から考えてみたい. まず, 本症例の抑うつに対しての考え方であるが, 長年続く強迫症状により二次的に抑うつ状態になっていると発表者は考えた, とのことであった. これは必ずしも間違ってはいないと思われる. 何かほかの問題があったとしても, 強迫症状による生活障害がさらに加わることによって自分と周囲との関係など新たな問題が増え, そのストレスにより強迫症状が悪化し, さらに問題が深刻化する, その結果抑うつも悪化することはよくみられる. ただ, 飯倉のいう「マクロの行動分析」という視点が少し欠けていたのだと思われる. 発表者は自身も述べていたように, 他院の医師からの依頼で, 仕事を休んでいる患者をなんとか早く復帰させようという焦りをもちつつ, 経験の乏しい行動療法に一生懸命取り組んでいたのであるから, 「ミクロの行動分析」, もっといえばそれを通り越して曝露反応妨害法という技法をうまく使おうということに神経を注いだのだと思われる. 実際に, 非常に丁寧に患者に付き添って治療が行われ奏功している. ただ, もし, 発表者が自分のこれまで慣れ親しんだ治療法でこの患者をみるときには, フロアからも指摘されたように, この人の価値観などを含めて周囲との関係や抱えている問題などを理解しようとしたはずである. 症状が改善したらどうなりたいか, どんなことがしたいかなどの質問を交えながら, 症状を抱えるこの人の状況全体を理解しながら治療を進めることが必要である. これはどの心理療法にも共通しているが, なぜか“行動療法=技法”と誤解されがちである. 患者の状況の把握のもとに行われる症状の把握, すなわち「ミクロの行動分析」は心理療法としての行動療法の醍醐味のひとつであり, フロアからの質問はその不十分さを指摘していた. 患者がどのような刺激に対してどのように感じ, 考えて強迫行為を行っているのか, その結果どのようになってきたのかを十分に治療者も患者も理解が進むような面接を重ね, 症状は学習されたもので治療をすればなんとかなるのだという治療意欲が引き出されて, はじめて曝露反応妨害法は開始される. 実際の治療では, 課題の達成に従い, 患者の状況(周囲との関係など)も改善されていくように工夫して課題は選択される. その意味で, 本技法がフロアから「患者に苦痛を強いる治療法」と呼ばれたのは残念に思った. 今後は, 強迫症状を克服したことを自信につなげつつ, 患者の状況の改善をめざす治療をされるとよいと思われる. 発表者の今後のさらなる実践に期待したい. |
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ISSN: | 0910-6529 2424-2594 |
DOI: | 10.24468/jjbt.33.2_203 |