過去の東京都立松沢病院薬局長の経歴と業績に関する考察―明治時代から第二次世界大戦終了時まで

序論:明治時代初期に東京府立の精神科病院が開設され,精神科疾患患者に対する治療が行われた.本稿では,現在の東京都立松沢病院の前身である 3 病院,東京府癲狂院(1879?1889),東京府立巣鴨病院(1889-1919),東京府立松沢病院(1919-)の薬局長の経歴と院内での業務を文献調査した.方法:次の資料の調査を行った.国立国会図書館デジタルコレクション,東京薬科大学図書館収蔵資料,東京都公文書館収蔵資料,国立公文書館収蔵資料,著者個人所有資料.結果・考察:東京府癲狂院の初代薬局長佐藤啓政は医師であった.同時に感染症の医療機関である避病院も兼務していたが.1874 年公布の「医制」で命名さ...

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Published in薬史学雑誌 Vol. 56; no. 2; pp. 97 - 107
Main Author 五位野, 政彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本薬史学会 2021
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ISSN0285-2314
2435-7529
DOI10.34531/jjhp.56.2_97

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Summary:序論:明治時代初期に東京府立の精神科病院が開設され,精神科疾患患者に対する治療が行われた.本稿では,現在の東京都立松沢病院の前身である 3 病院,東京府癲狂院(1879?1889),東京府立巣鴨病院(1889-1919),東京府立松沢病院(1919-)の薬局長の経歴と院内での業務を文献調査した.方法:次の資料の調査を行った.国立国会図書館デジタルコレクション,東京薬科大学図書館収蔵資料,東京都公文書館収蔵資料,国立公文書館収蔵資料,著者個人所有資料.結果・考察:東京府癲狂院の初代薬局長佐藤啓政は医師であった.同時に感染症の医療機関である避病院も兼務していたが.1874 年公布の「医制」で命名された,薬剤師の前身である薬舗主としての勤務は見られなかった.東京府立巣鴨病院薬局では,板垣懋が最初の薬剤師として薬局長を務めた.彼は感染症病院である駒込病院勤務の後に巣鴨病院に勤務している.1895 年から 1911 年まで東京府立巣鴨病院薬局長となった二宮昌平は,模範薬局(現東京大学医学部附属病院薬剤部)で勤務した後に巣鴨病院に異動した.巣鴨病院の退職後はロシュ社に入社し,日本最初の MR として活躍した.東京府立松沢病院では 3 人の薬学士(東京帝国大学卒業)が薬局長に就任した.順に谷克己,加藤静雄,馬場治郎で,いずれも医学 / 薬学専門学校の教授という前歴を持ち,加藤は後に東京女子薬学専門学校校長を務めた.精神科医療は偏見を持たれる分野であったが,東京府立病院には優秀な人物が必要であり府立病院薬局長は薬学の社会では高いステータスであったことが,その時代背景からわかった.当時の東京府立巣鴨病院,東京府立松沢病院薬局長は精神科医療における専門性を有していなかったが,薬学という専門性(調剤,製錬,試験をはじめ飲料水検査などの衛生薬学や医薬品情報の収集提供など幅広い知識と経験)をもって精神科医療に貢献していた.
ISSN:0285-2314
2435-7529
DOI:10.34531/jjhp.56.2_97