異分野融合研究による褥瘡感染対策のケアイノベーション

褥瘡や糖尿病足潰瘍、静脈性下腿潰瘍などの難治性創傷は、常に外部の病原菌に曝されている。細菌が創傷治癒に影響を及ぼし、明瞭な炎症反応を呈する場合に感染が生じていると判断できるが、臨床では創傷治癒が遅延するものの、明確な炎症反応がなく、抗菌療法によって治癒が進行する病態が問題なっている。これをクリティカルコロナイゼーション (臨界的定着) と呼んでおり、細菌の定着と感染の間のグレーゾーンを指している。臨床において、創傷感染とクリティカルコロナイゼーションを早期に発見し、適切なケアを実施するための方策が求められている。 近年、バイオフィルムとクリティカルコロナイゼーション・感染との関連が指摘されてい...

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Published inThe Nursing Pharmacology Conference Vol. 2021.1; p. S1-3
Main Author 仲上, 豪二朗
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本薬理学会 2021
Japanese Pharmacological Society
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ISSN2435-8460
DOI10.34597/npc.2021.1.0_S1-3

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Abstract 褥瘡や糖尿病足潰瘍、静脈性下腿潰瘍などの難治性創傷は、常に外部の病原菌に曝されている。細菌が創傷治癒に影響を及ぼし、明瞭な炎症反応を呈する場合に感染が生じていると判断できるが、臨床では創傷治癒が遅延するものの、明確な炎症反応がなく、抗菌療法によって治癒が進行する病態が問題なっている。これをクリティカルコロナイゼーション (臨界的定着) と呼んでおり、細菌の定着と感染の間のグレーゾーンを指している。臨床において、創傷感染とクリティカルコロナイゼーションを早期に発見し、適切なケアを実施するための方策が求められている。 近年、バイオフィルムとクリティカルコロナイゼーション・感染との関連が指摘されている。バイオフィルムは細菌が産生する多糖類、タンパク質、細胞外DNAを主成分とする3次元構造体である。バイオフィルム状態の細菌は、抗菌薬や宿主免疫に抵抗性を示すため、宿主との共存を可能としている。さらには、バイオフィルム内部の細菌が外部へ放出されることにより持続的な感染を成立させることが可能であり、創傷治癒促進や重篤な感染症予防のためにはバイオフィルムの同定と除去が必要である。近年、Bioflm-based wound therapy として、バイオフィルムの有無によって創傷治療を選択する必要性が提唱されてきたが、臨床でバイオフィルムを可視化する技術がなかったため、実践に移すのが困難であった。そこで我々は「非侵襲、簡便、迅速」という看護学に必要なアセスメントの要件を満たすバイオフィルム可視化ツールの開発に着手した。ウェスタンブロッティングにヒントを得て、創部表面に存在するバイオフィルム成分をニトロセルロースメンブレンに転写し、特異的に染色することで、短時間でバイオフィルムを可視化することに成功した。これには、分子生物学者のアイディアと、化学者の染色・脱色液の処方技術が大きく貢献した。本手法の基準関連妥当性は動物実験並びに臨床の壊死組織サンプルを用いて検証している (Astrada A etal, inpress)。バイオフィルムが陽性である場合に、壊死組織の増大 (Nakagami G etal, 2017)、創傷治癒遅延 (Wu YF etal, 2020)を予測することが可能であり、バイオフィルム染色結果に基づいて低侵襲デブリードマンを実施するケアシステムにより慢性創傷の創傷治癒が促進することを報告してきた (Nakagami G etal, 2020; Mori Yetal, 2019)。本シンポジウムでは異分野融合で開発したバイオフィルムの可視化に基づく創傷ケアのイノベーションについて述べる。
AbstractList 褥瘡や糖尿病足潰瘍、静脈性下腿潰瘍などの難治性創傷は、常に外部の病原菌に曝されている。細菌が創傷治癒に影響を及ぼし、明瞭な炎症反応を呈する場合に感染が生じていると判断できるが、臨床では創傷治癒が遅延するものの、明確な炎症反応がなく、抗菌療法によって治癒が進行する病態が問題なっている。これをクリティカルコロナイゼーション (臨界的定着) と呼んでおり、細菌の定着と感染の間のグレーゾーンを指している。臨床において、創傷感染とクリティカルコロナイゼーションを早期に発見し、適切なケアを実施するための方策が求められている。 近年、バイオフィルムとクリティカルコロナイゼーション・感染との関連が指摘されている。バイオフィルムは細菌が産生する多糖類、タンパク質、細胞外DNAを主成分とする3次元構造体である。バイオフィルム状態の細菌は、抗菌薬や宿主免疫に抵抗性を示すため、宿主との共存を可能としている。さらには、バイオフィルム内部の細菌が外部へ放出されることにより持続的な感染を成立させることが可能であり、創傷治癒促進や重篤な感染症予防のためにはバイオフィルムの同定と除去が必要である。近年、Bioflm-based wound therapy として、バイオフィルムの有無によって創傷治療を選択する必要性が提唱されてきたが、臨床でバイオフィルムを可視化する技術がなかったため、実践に移すのが困難であった。そこで我々は「非侵襲、簡便、迅速」という看護学に必要なアセスメントの要件を満たすバイオフィルム可視化ツールの開発に着手した。ウェスタンブロッティングにヒントを得て、創部表面に存在するバイオフィルム成分をニトロセルロースメンブレンに転写し、特異的に染色することで、短時間でバイオフィルムを可視化することに成功した。これには、分子生物学者のアイディアと、化学者の染色・脱色液の処方技術が大きく貢献した。本手法の基準関連妥当性は動物実験並びに臨床の壊死組織サンプルを用いて検証している (Astrada A etal, inpress)。バイオフィルムが陽性である場合に、壊死組織の増大 (Nakagami G etal, 2017)、創傷治癒遅延 (Wu YF etal, 2020)を予測することが可能であり、バイオフィルム染色結果に基づいて低侵襲デブリードマンを実施するケアシステムにより慢性創傷の創傷治癒が促進することを報告してきた (Nakagami G etal, 2020; Mori Yetal, 2019)。本シンポジウムでは異分野融合で開発したバイオフィルムの可視化に基づく創傷ケアのイノベーションについて述べる。
Author 仲上, 豪二朗
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  fullname: 仲上, 豪二朗
  organization: 東京大学大学院医学系研究科老年看護学/創傷看護学分野医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター
BackLink https://cir.nii.ac.jp/crid/1390850391142502784$$DView record in CiNii
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