運動失調を呈したオリーブ核損傷者に対する免荷式歩行器を使用した理学療法の効果
【目的】 オリーブ核は延髄にあるオリーブ内にあり,錐体外路系伝導路の中継核として,運動調節に関与している.オリーブ核の損傷により小脳回路網の断裂がみられると運動失調や運動学習障害によって,患者のActivities of daily living(ADL)に多大な影響をもたらすだけではなく,治療に難渋することも少なくない.今回,免荷式リフト「POPO®(モリト―社製)」をオリーブ核損傷による失調症状で日常生活動作の介助量増加と運動調節が困難となった症例に用い,運動学習から運動失調軽減に向けたリハビリテーション(リハ)を実施したので報告する.【症例】 30代男性で,くも膜下出血および右延髄小脳梗...
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Published in | Kyushu physical therapist Congress Vol. 2019; p. 74 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
2019
Kyushu Physical Therapy Association |
Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 2434-3889 |
DOI | 10.32298/kyushupt.2019.0_74 |
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Summary: | 【目的】 オリーブ核は延髄にあるオリーブ内にあり,錐体外路系伝導路の中継核として,運動調節に関与している.オリーブ核の損傷により小脳回路網の断裂がみられると運動失調や運動学習障害によって,患者のActivities of daily living(ADL)に多大な影響をもたらすだけではなく,治療に難渋することも少なくない.今回,免荷式リフト「POPO®(モリト―社製)」をオリーブ核損傷による失調症状で日常生活動作の介助量増加と運動調節が困難となった症例に用い,運動学習から運動失調軽減に向けたリハビリテーション(リハ)を実施したので報告する.【症例】 30代男性で,くも膜下出血および右延髄小脳梗塞を発症して両上下肢,体幹に運動失調が出現した.他院(2医療機関)で約3年の入院,訪問リハを実施し,発症から1042日目に当院回復期リハ病棟へ転入となった.脳画像所見から,小脳核の損傷は認めないものの延髄はオリーブ核を含めた損傷を認めた.運動失調の程度はScale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)で35点であり,動作を行おうとすると失調症状が増強するため,起居動作や端座位保持,立位等は自力では行えず,補助具や介助が必要な状態であった.ADL・セルフケアは全介助で,Function Independence Measure(FIM)は54点,運動項目は23点であった.【方法】 POPOを使用した歩行練習を行った.運動調節の必要が少ない運動とco-contractionが生じる運動スピードを意識した運動を反復して行った.POPOの操作は理学療法士が行い,歩行速度は快適歩行スピードよりも遅く設定し,運動調節の必要が少ないゆっくりとした歩行スピードで行った.また,歩行スピードは失調症状と歩行能力に応じて漸増を図った.【結果】 SARAは初回35点から退院時30点へと改善し,失調症状の軽減を認めた.失調症状の軽減により端座位・立位・歩行姿勢の改善やADLで手足をぶつけてしまう現象は著明に軽減した.FIMは68点,運動項目は35点,特に食事,移乗動作において点数が向上した.【結論】 大三角のみを用いた運動調節を考慮し,co-contractionが生じる運動スピードを意識した運動を実施した.POPOは運動失調の出現しにくいゆっくりとした動作が可能となり,フィードフォワード機構を用いた誤差修正の少ない運動が可能となり,小脳内部モデルの再構築が促進され,学習へつながったと考えられた.免荷式歩行器を用いた理学療法は,オリーブ核を介する運動の誤差修正を必要としない運動が行いやすく,オリーブ核損傷に伴って生じる運動失調および運動調整の困難さを軽減させる可能性が示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】 本報告は当院倫理委員会の承認(20180920181)を得たものであり.症例には本報告の目的と趣旨,個人情報の保護に関する説明を書面と口頭にて行い同意を得た. |
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ISSN: | 2434-3889 |
DOI: | 10.32298/kyushupt.2019.0_74 |