心臓移植後の拒絶反応による心停止蘇生後、ICU-AW を合併した患者への理学療法の経験

【はじめに】本邦における心臓移植術の10 年生存率は約90%とされ、欧米諸国と比較しても良好な成績である。心臓移植は生命予後のみならず運動耐容能や身体機能の改善をもたらすが、拒絶反応といった移植特有の合併症があり、時には致死的合併症となり、集中治療が必要となる。近年、集中治療領域において急性の左右対称性の四肢筋力低下を呈するICU-AW(ICU-acquired weakness)が注目されている。今回、心臓移植後4 年以上経過し、拒絶反応治療中に心停止に至った後、救命されたが、ICU-AW を合併した症例を経験したため報告する。【症例提示】症例は60 代男性。X-14 年に拡張相肥大型心筋症...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2022; p. 124
Main Authors 永富, 祐太, 橋本, 亨, 林, 雄李, 吉武, 智亮, 根津, 智之, 樋口, 妙, 筒井, 裕之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2022
Kyushu Physical Therapy Association
Subjects
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2022.0_124

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Summary:【はじめに】本邦における心臓移植術の10 年生存率は約90%とされ、欧米諸国と比較しても良好な成績である。心臓移植は生命予後のみならず運動耐容能や身体機能の改善をもたらすが、拒絶反応といった移植特有の合併症があり、時には致死的合併症となり、集中治療が必要となる。近年、集中治療領域において急性の左右対称性の四肢筋力低下を呈するICU-AW(ICU-acquired weakness)が注目されている。今回、心臓移植後4 年以上経過し、拒絶反応治療中に心停止に至った後、救命されたが、ICU-AW を合併した症例を経験したため報告する。【症例提示】症例は60 代男性。X-14 年に拡張相肥大型心筋症と診断、X-9 年に植込型左室補助人工心臓装着術、X-5 年に心臓移植術を施行し、その後の経過は良好で就業していた。X年に拒絶反応と診断され入院し、ステロイドパルス療法施行後、ステロイド内服を継続していた。退院前日の朝から洞性徐脈を認め、意識消失し心肺蘇生開始。蘇生処置を行うも自己心拍再開せず、挿管・人工呼吸器管理、機械的補助循環装置、持続的血液濾過透析、体外式ペースメーカーを挿入。同日ステロイドパルス療法と免疫抑制剤、強心薬投与し加療となった。蘇生後4 病日に機械的補助循環装置離脱、7 病日に抜管・人工呼吸器離脱し、8 病日にリハビリテーション開始した。【経過】開始時GCS E4V5M6、血圧92/82mmHg(ドブタミン0.5 γ投与)、脈拍112bpm(整)、SpO2 99%(O2 3L/min)と循環動態は安定していたが、MRC(Medical Research Council)score 23 点、FSS-ICU(functional status score for the ICU)0点と8日間という短期間の安静臥床期間にも関わらず、著明な筋力低下を認め、基本動作は全介助レベルであった。介入当初、ベッド上の四肢自動運動で強い疲労感が出現したため、自動から抵抗運動を中心とした介入より開始し、端坐位や車いす座位時間の延長を図りながら、疲労感に応じて起立練習を行ったが、起立は3 名の介助者を要す状況であった。30 病日に持続的血液濾過透析離脱、31 病日に強心薬離脱し、一般病棟へ転棟した。34 病日より2 名介助での歩行器歩行練習を開始した。この頃から下肢筋群の運動に加えて起立、歩行練習中心の介入へ段階的に移行した。36 病日に植込型除細動器移植術を施行し、44 病日から1 日2 回の介入をレジスタンストレーニングと歩行練習に分けて実施した。リスク管理は、除神経心によって心拍応答が遅いため、Borg scale を確認し運動負荷を調整した。53 病日には固定式歩行器を使用しトイレ歩行見守りとなり、67 病日にトイレ動作自立、固定式歩行器を導入し70 病日で自宅退院となった。退院時の体重は入院時から11.6kg 減少したものの、23 病日から退院前の身体機能はMRCscore 34 →48 点、FSS-ICU 5 →28 点、最大握力14.3 →21.4kg、最大膝伸展筋力0.064 →0.15kgf/kg、SPPB 0 →5点、FIM 34 →105 点、BI 5 →70 点と著明に改善した。【考察】本症例は心停止蘇生後にICU-AW を合併した症例である。ICU-AW の原因として多数の因子が想定されているが、本症例においては安静臥床や呼吸器、補助循環装置等の集中治療に加え、ステロイド治療によるステロイドミオパチー、免疫抑制剤の使用が考えられる。ICU-AW への明確な介入方法は確立されていないが、運動療法を中心とした介入が推奨されており、症例の状態に応じて運動療法を段階的に変更したことによりADL が拡大し、自宅退院に至ったと考える。しかし、退院時の身体機能は入院前に比して顕著に低下しており、ICU-AW の改善には長期間を要すとされることからも、今後も継続的なリハビリテーションが必要と考えられる。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に口頭及び書面にて症例報告の目的を十分に説明し同意の署名を得た。
Bibliography:P-52
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2022.0_124