基礎免疫学から疾患の免疫学へ

生命科学としての基礎免疫学は疾患の理解の為の重要な情報を提供してくれるが、それだけで病気が理解できたり、新しい治療法が開発できるわけではない。さらに疾患研究におけるモデル動物は重要であるが、実際の疾患との異同を十分に理解しないと、間違った方向に進む可能性がある。例えば、ノックアウトマウスの表現型がヒトの病態と似ていても、全く違うメカニズムのこともある。実際のヒトの病態とモデル動物との比較する学問がもっと発達しなくてはならないと考える。自己免疫疾患の例として、T細胞が関わると思われる炎症性腸疾患と抗体が主役の尋常性天疱瘡などにおいてモデルマウスが作製されているが、どこまでヒトの疾患と同列に論じら...

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Published inNihon Rinsho Men'eki Gakkai Sokai Shorokushu Vol. 34; p. 108
Main Authors 小安, 重夫, 山本, 一彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本臨床免疫学会 2006
The Japan Society for Clinical Immunology
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ISSN1880-3296
DOI10.14906/jscisho.34.0.108.0

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Abstract 生命科学としての基礎免疫学は疾患の理解の為の重要な情報を提供してくれるが、それだけで病気が理解できたり、新しい治療法が開発できるわけではない。さらに疾患研究におけるモデル動物は重要であるが、実際の疾患との異同を十分に理解しないと、間違った方向に進む可能性がある。例えば、ノックアウトマウスの表現型がヒトの病態と似ていても、全く違うメカニズムのこともある。実際のヒトの病態とモデル動物との比較する学問がもっと発達しなくてはならないと考える。自己免疫疾患の例として、T細胞が関わると思われる炎症性腸疾患と抗体が主役の尋常性天疱瘡などにおいてモデルマウスが作製されているが、どこまでヒトの疾患と同列に論じられるかは厳密に検証されるべきである。また、モデル動物における発症とヒトにおける発症の機序がどこまで類似するかもきちんと議論されるべきであろう。 一方で治療に目を向けると、マウスで非常に効果のある治療法でもヒトに応用できていないものがある。経口免疫寛容を例にとると、動物モデルでは、自己抗原の経口投与で自己免疫疾患を制御出来たとのデータが多くあるが、現在までのところヒトの治験ではうまくいっていない。すなわち、マウスとヒトの免疫システムは似ているが、違うところも多い。技術的な問題を克服してヒトの免疫システムを体系的に十分に理解する必要があるのではないかと考える。 ヒトの免疫システムを十分に理解しないで、新しい治療法を開発している現在の状況は、ある意味では一点突破主義ではないかとも言える。2006年英国で起こった、ヒト化されたアゴニスト作用を持つ抗CD28抗体の第1相試験における事故は、ヒトの免疫システムの体系的理解が不十分だったからとも言えるのではないだろうか。
AbstractList 生命科学としての基礎免疫学は疾患の理解の為の重要な情報を提供してくれるが、それだけで病気が理解できたり、新しい治療法が開発できるわけではない。さらに疾患研究におけるモデル動物は重要であるが、実際の疾患との異同を十分に理解しないと、間違った方向に進む可能性がある。 例えば、ノックアウトマウスの表現型がヒトの病態と似ていても、全く違うメカニズムのこともある。実際のヒトの病態とモデル動物との比較する学問がもっと発達しなくてはならないと考える。自己免疫疾患の例として、T細胞が関わると思われる炎症性腸疾患と抗体が主役の尋常性天疱瘡などにおいてモデルマウスが作製されているが、どこまでヒトの疾患と同列に論じられるかは厳密に検証されるべきである。また、モデル動物における発症とヒトにおける発症の機序がどこまで類似するかもきちんと議論されるべきであろう。  一方で治療に目を向けると、マウスで非常に効果のある治療法でもヒトに応用できていないものがある。経口免疫寛容を例にとると、動物モデルでは、自己抗原の経口投与で自己免疫疾患を制御出来たとのデータが多くあるが、現在までのところヒトの治験ではうまくいっていない。すなわち、マウスとヒトの免疫システムは似ているが、違うところも多い。技術的な問題を克服してヒトの免疫システムを体系的に十分に理解する必要があるのではないかと考える。  ヒトの免疫システムを十分に理解しないで、新しい治療法を開発している現在の状況は、ある意味では一点突破主義ではないかとも言える。2006年英国で起こった、ヒト化されたアゴニスト作用を持つ抗CD28抗体の第1相試験における事故は、ヒトの免疫システムの体系的理解が不十分だったからとも言えるのではないだろうか。
生命科学としての基礎免疫学は疾患の理解の為の重要な情報を提供してくれるが、それだけで病気が理解できたり、新しい治療法が開発できるわけではない。さらに疾患研究におけるモデル動物は重要であるが、実際の疾患との異同を十分に理解しないと、間違った方向に進む可能性がある。例えば、ノックアウトマウスの表現型がヒトの病態と似ていても、全く違うメカニズムのこともある。実際のヒトの病態とモデル動物との比較する学問がもっと発達しなくてはならないと考える。自己免疫疾患の例として、T細胞が関わると思われる炎症性腸疾患と抗体が主役の尋常性天疱瘡などにおいてモデルマウスが作製されているが、どこまでヒトの疾患と同列に論じられるかは厳密に検証されるべきである。また、モデル動物における発症とヒトにおける発症の機序がどこまで類似するかもきちんと議論されるべきであろう。 一方で治療に目を向けると、マウスで非常に効果のある治療法でもヒトに応用できていないものがある。経口免疫寛容を例にとると、動物モデルでは、自己抗原の経口投与で自己免疫疾患を制御出来たとのデータが多くあるが、現在までのところヒトの治験ではうまくいっていない。すなわち、マウスとヒトの免疫システムは似ているが、違うところも多い。技術的な問題を克服してヒトの免疫システムを体系的に十分に理解する必要があるのではないかと考える。 ヒトの免疫システムを十分に理解しないで、新しい治療法を開発している現在の状況は、ある意味では一点突破主義ではないかとも言える。2006年英国で起こった、ヒト化されたアゴニスト作用を持つ抗CD28抗体の第1相試験における事故は、ヒトの免疫システムの体系的理解が不十分だったからとも言えるのではないだろうか。
Author 小安, 重夫
山本, 一彦
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