観光者の問題行動を読み解く

本稿は観光者の問題行動について、その倫理的側面、人間の問題行動の理論的枠組み、観光者が引き起こす問題行動の内容、問題行動の背景と理由など多角的に考察する。問題行動とは、社会規範に照らして考えた場合、何らかの好ましくない意味を持つ行動のことである。観光者の問題行動に関する研究は、観光が抱える問題に対して善悪や正邪という行為の価値基準に踏み込み、問題の理解、解決や緩和にも踏み込むことを目的とした観光倫理研究の一主題であるが、その学術的理解は遅れている。観光者に関わる倫理は、「楽しみとしての観光」を自己認識的な倫理・道徳的な観光へ変化させ、快楽的楽しみを罪や強制に置き換えてしまう可能性があり、トピッ...

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Bibliographic Details
Published in観光学評論 Vol. 10; no. 2; pp. 131 - 146
Main Author 薬師寺, 浩之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 観光学術学会 2022
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ISSN2187-6649
2434-0154
DOI10.32170/tourismstudies.10.2_131

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Summary:本稿は観光者の問題行動について、その倫理的側面、人間の問題行動の理論的枠組み、観光者が引き起こす問題行動の内容、問題行動の背景と理由など多角的に考察する。問題行動とは、社会規範に照らして考えた場合、何らかの好ましくない意味を持つ行動のことである。観光者の問題行動に関する研究は、観光が抱える問題に対して善悪や正邪という行為の価値基準に踏み込み、問題の理解、解決や緩和にも踏み込むことを目的とした観光倫理研究の一主題であるが、その学術的理解は遅れている。観光者に関わる倫理は、「楽しみとしての観光」を自己認識的な倫理・道徳的な観光へ変化させ、快楽的楽しみを罪や強制に置き換えてしまう可能性があり、トピックの扱いづらさが研究の蓄積の少なさの一要因であると考えられる。観光の本質である快楽追及主義的志向は観光者の問題行動と密接な関係があり、問題行動の解決や緩和は一筋縄ではいかないのは事実である。しかし、持続可能な社会構築が求められる今日において、観光者の責任ある行動は以前にも増して求められている。観光者に責任ある行動を啓蒙することも重要ではあるが、それ以前に観光者の問題行動に対処することも求められる。
ISSN:2187-6649
2434-0154
DOI:10.32170/tourismstudies.10.2_131