手すりの有無によるトイレ動作の各工程における達成率の差異;高齢者での検討

【目的】 トイレ動作は,自宅退院に深く関連する日常生活動作の一つであり,移乗や更衣,清拭といった工程で構成されている.理学療法士は,トイレ動作の自立に向けて,患者の動作能力に必要なトレーニングや,トイレ内の改修を検討しなければならない.トイレ内の改修で,手すりの設置は最も頻度が高いとされるが,トイレ動作の各工程において,手すりの使用がもたらす効果は明らかではない.本研究の目的は,手すりの有無におけるトイレ動作の各工程別の達成率を比較し,手すりの設置が有効な工程を明らかにすることである. 【方法】 対象は,当院に入院した65歳以上の高齢患者25例 (平均81.9歳) である.除外基準は,病室内A...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 Vol. 31; p. 269
Main Authors 小山, 真吾, 松下, 和彦, 森尾, 裕志, 清水, 弘之, 井澤, 和大, 松永, 優子, 石山, 大介, 堅田, 紘頌
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2012
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.31.0_269

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Summary:【目的】 トイレ動作は,自宅退院に深く関連する日常生活動作の一つであり,移乗や更衣,清拭といった工程で構成されている.理学療法士は,トイレ動作の自立に向けて,患者の動作能力に必要なトレーニングや,トイレ内の改修を検討しなければならない.トイレ内の改修で,手すりの設置は最も頻度が高いとされるが,トイレ動作の各工程において,手すりの使用がもたらす効果は明らかではない.本研究の目的は,手すりの有無におけるトイレ動作の各工程別の達成率を比較し,手すりの設置が有効な工程を明らかにすることである. 【方法】 対象は,当院に入院した65歳以上の高齢患者25例 (平均81.9歳) である.除外基準は,病室内ADLが全て自立している例,整形外科疾患や脳神経疾患,認知症を呈する例とした.調査には,当院リハビリテーション室内の便器(TOTO製 TCF6011,便座高45.0cm,便器両側に手すり有り)を用い,その側方に座面高45.0cmの標準型車椅子(椅子)を設置した.トイレ動作は移乗,更衣などを含む10工程に分類した.対象者は,監視下にて,トイレ動作を「手すり有り条件」と「手すり無し条件」の2条件で模擬的に施行した.検者(理学療法士)は,トイレ動作をFIMの採点基準を参考にし,全例の各工程における,介助無しで遂行できた者の割合を達成率として算出した.統計学的手法は,Wilcoxonの符号付順位検定を用い,統計学的判定基準は5%とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究の主旨を説明し,同意を得て実施した. 【結果】 各工程の達成率は,手すり有り条件 vs 手すり無し条件の順に,「椅子からの立ち上がり」(100% vs 64%, p<0.01),「便座への転回」(100% vs 76%, p<0.05),「ズボンを下げる」(88% vs 84%),「便座への着座」(100% vs 76%, p<0.05),「紙をとる」(100% vs 100%),「清拭」(88% vs 88%),「便座からの立ち上がり」(100% vs 64%, p<0.01),「ズボンを上げる」(88% vs 88%),「椅子への転回」(100% vs 76%, p<0.05),「椅子への着座」(100% vs 76%, p<0.05)であった. 【考察】 「椅子からの立ち上がり」「便座への転回」「便座への着座」「便座からの立ち上がり」「椅子への転回」「椅子への着座」の工程は,手すり有り条件で達成率が向上することから,手すりの設置が有効であると考えられた.その要因として,手すりが筋力や支持基底面を補っていたことが推察され,運動機能を含めた更なる検討が必要と考えられた. 【まとめ】 手すりの設置は,トイレ動作の立ち上がり,転回,着座の工程において,自立度向上に寄与することが示された.
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ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.31.0_269