稀な膵頭部腫瘤の1例

症例は47歳男性。20歳頃より繰り返す難治性潰瘍にて近医で加療中であった。HP陽性であり、過去に2回の除菌療法施行されている既往がある。平成17年8月より激しい背部痛を自覚するようになり、近医を受診。加療後も症状は軽快せず、精査目的に同年12月当院内科を紹介受診された。内視鏡所見は、十二指腸に巨大潰瘍と瘢痕を認めた。血液検査所見では、白血球(4600/ul)やCRP(0.2mg/dl)など炎症所見は正常範囲内であり、肝胆道系酵素の上昇も見られなかった。その他膵外分泌機能検査、腫瘍マーカー(CEA:2.7pg/ml、CA19-9:17U/ml)等にも明らかな異常値は認めなかった。マルチスライスC...

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Published inNihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 55; p. 203
Main Authors 紀平, 尚久, 別府, 恒, 堀切, 延寿, 田岡, 大樹, 明星, 匡郎, 後藤, 幹伸, 斉藤, 知規
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本農村医学会 2006
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
Subjects
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ISSN1880-1749
1880-1730
DOI10.14879/nnigss.55.0.203.0

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Summary:症例は47歳男性。20歳頃より繰り返す難治性潰瘍にて近医で加療中であった。HP陽性であり、過去に2回の除菌療法施行されている既往がある。平成17年8月より激しい背部痛を自覚するようになり、近医を受診。加療後も症状は軽快せず、精査目的に同年12月当院内科を紹介受診された。内視鏡所見は、十二指腸に巨大潰瘍と瘢痕を認めた。血液検査所見では、白血球(4600/ul)やCRP(0.2mg/dl)など炎症所見は正常範囲内であり、肝胆道系酵素の上昇も見られなかった。その他膵外分泌機能検査、腫瘍マーカー(CEA:2.7pg/ml、CA19-9:17U/ml)等にも明らかな異常値は認めなかった。マルチスライスCTでは膵頭部に径8mmで境界明瞭な腫瘤を認め、辺縁に脂肪を含んでおり積極的に悪性を疑う所見は認めなかった。MRCPでは下部胆管に片側性の狭窄を認め、主膵管にも軽度の拡張を認めた。積極的に悪性腫瘍を疑う所見は認めないものの、また機能性腫瘍は否定できず、手術目的にて外科転科となった。術中所見では十二指腸穿孔を認め、十二指腸とその周囲臓器に高度の癒着があり横行結腸の剥離も困難であった。膵頭部を直接触診するも腫瘤は触れず、肉眼的には明らかな悪性所見は認めなかった。膵頭十二指腸切除術(右半結腸を合併切除)が施行され、十二指腸潰瘍の穿孔による周囲への炎症の波及および瘢痕形成、癒着を認め、膵内に及んだ瘢痕組織の中に白色の腫瘤を認めた。この腫瘤はシュワン細胞、神経周囲線維芽細胞などの神経線維束を形成する細胞を認め、その組織間には毛細血管を含む結合組織が増生、周囲は成熟した線維成分の増生を認めた。辺縁には成熟した脂肪組織が混在しており、CTの所見に一致していた。以上より、繰り返す十二指腸潰瘍により膵を含む周囲臓器への炎症の波及の結果、神経が損傷されたことにより発生した断端神経腫と診断された。術後経過は良好で、以前より認めていた激痛は改善し、術後14日で退院となった。  断端神経腫(amputation neuroma)は、四肢の切断後に生じる切断端の有痛性の腫瘤として知られ、本体はシュワン細胞を含む神経線維の過形成である。胆道系では胆嚢摘出後の切離断端に発生するという報告はある(本邦では64例の報告があり)が、本例のように膵発生は極めて稀で、1例のみ報告があるが手術施行後の症例であり手術操作が原因であると考えられていた。非手術例では本例のみと推測される。術前診断は非常に困難であるが、断端神経腫を疑う所見としては、_[1]_胆道系手術または肝十二指腸靭帯に操作が及ぶような手術既往があり、術後長時間が経過していること、_[2]_胆道造影では一側性の管外圧排、壁内性腫瘍、良性の狭窄像として描出される事、_[3]_その他積極的に悪性を疑う身体所見、画像所見に乏しい事等が挙げられる。断端神経腫は極めて稀な疾患で、良性疾患であるにもかかわらず、有痛性であり加療が必要であるという興味深い一例であり若干の文献的考察を加味し報告する。
Bibliography:2C13
ISSN:1880-1749
1880-1730
DOI:10.14879/nnigss.55.0.203.0