テレスコープアレイ実験による史上最大級のエネルギーをもつ宇宙線「アマテラス粒子」の検出

2021年5月27日,244エクサ電子ボルト(=244 EeV=2.44×1020 eV)という観測史上最大級のエネルギーをもつ宇宙線「アマテラス粒子」が米国ユタ州で検出された.この粒子はたったひとつの粒子であるにもかかわらず,40 Wの電球を1秒点灯できるという巨視的なエネルギーをもつ.仮に1グラムあれば日本全体の年間電気使用量(約1,000テラワット時)を約1,000万年もまかなうことができるという,とてつもないエネルギーである.宇宙にはこのような高いエネルギーをもつ粒子が存在し,地球に絶えず降り注いでいる.これまでの観測で,108 eVから1020 eVを超える幅広いエネルギーの宇宙線が...

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Published in日本物理学会誌 Vol. 79; no. 9; pp. 507 - 511
Main Authors 樋口, 諒, 藤田, 慧太郎, 木戸, 英治, 藤井, 俊博
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本物理学会 05.09.2024
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ISSN0029-0181
2423-8872
DOI10.11316/butsuri.79.9_507

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Abstract 2021年5月27日,244エクサ電子ボルト(=244 EeV=2.44×1020 eV)という観測史上最大級のエネルギーをもつ宇宙線「アマテラス粒子」が米国ユタ州で検出された.この粒子はたったひとつの粒子であるにもかかわらず,40 Wの電球を1秒点灯できるという巨視的なエネルギーをもつ.仮に1グラムあれば日本全体の年間電気使用量(約1,000テラワット時)を約1,000万年もまかなうことができるという,とてつもないエネルギーである.宇宙にはこのような高いエネルギーをもつ粒子が存在し,地球に絶えず降り注いでいる.これまでの観測で,108 eVから1020 eVを超える幅広いエネルギーの宇宙線が地球で検出されている.あるエネルギー以上の宇宙線の到来頻度は,エネルギーが10倍になると約1/100に減少する.100 EeV以上の宇宙線は1 km2あたりに300年にたった1粒子しか到来しないため,検出には広大な検出面積と装置の長期運用が必要である.この100 EeVを超えるエネルギーをもつ極高エネルギー宇宙線は,地球でもっとも大きい粒子加速器で到達できるエネルギーより7桁以上も大きく,宇宙でもっとも高いエネルギーをもつ粒子である.極高エネルギー宇宙線がどこで生まれ,どのように地球にやってきたのかについては未だ明らかになっていない.極高エネルギー宇宙線がどこからやってきたのかを明らかにするため,世界9か国/地域の国際共同宇宙線観測実験,テレスコープアレイ実験がはじまった.テレスコープアレイ実験は,面積3 m2のプラスチックシンチレーターを1.2 km間隔で507台設置した地表粒子検出器アレイであり,700 km2の面積にやってくる極高エネルギー宇宙線の観測を2008年から続けている.これまで15年以上の定常観測の中で,もっとも高いエネルギーをもつ宇宙線が冒頭で紹介したアマテラス粒子である.アマテラス粒子は,地球大気に入射したあと大気との相互作用によって二次粒子群(空気シャワー)を生成し,23台の地表粒子検出器でほぼ同時に信号が検出された.それぞれの検出器で記録された空気シャワーの到来時間差と粒子数密度から,アマテラス粒子の到来方向とエネルギーが推定された.アマテラス粒子のような極めて高いエネルギーをもつ宇宙線は,宇宙磁場ではほとんど曲げられず,到来方向が発生源をさししめすことが期待されていた.しかし,驚くべきことにアマテラス粒子の到来方向には有力な候補天体が見あたらず,わたしたちのいる天の川銀河の近傍の大規模構造では局所的空洞(ローカルボイド)と呼ばれる方向から到来していた.極高エネルギー宇宙線の発生源としては,大質量ブラックホールをもつ,おとめ座銀河団にある楕円銀河(M87)や,星形成が非常に活動的な銀河(M82)が候補天体として考えられていたが,それらのどの方向とも異なっていたのである.このことの説明には,不定性の大きい宇宙磁場を仮定した天体起源シナリオの議論のほか,未知の天体現象,暗黒物質(ダークマター)の崩壊やモノポールといった新物理起源の可能性も提案されている.
AbstractList 2021年5月27日,244エクサ電子ボルト(=244 EeV=2.44×1020 eV)という観測史上最大級のエネルギーをもつ宇宙線「アマテラス粒子」が米国ユタ州で検出された.この粒子はたったひとつの粒子であるにもかかわらず,40 Wの電球を1秒点灯できるという巨視的なエネルギーをもつ.仮に1グラムあれば日本全体の年間電気使用量(約1,000テラワット時)を約1,000万年もまかなうことができるという,とてつもないエネルギーである.宇宙にはこのような高いエネルギーをもつ粒子が存在し,地球に絶えず降り注いでいる.これまでの観測で,108 eVから1020 eVを超える幅広いエネルギーの宇宙線が地球で検出されている.あるエネルギー以上の宇宙線の到来頻度は,エネルギーが10倍になると約1/100に減少する.100 EeV以上の宇宙線は1 km2あたりに300年にたった1粒子しか到来しないため,検出には広大な検出面積と装置の長期運用が必要である.この100 EeVを超えるエネルギーをもつ極高エネルギー宇宙線は,地球でもっとも大きい粒子加速器で到達できるエネルギーより7桁以上も大きく,宇宙でもっとも高いエネルギーをもつ粒子である.極高エネルギー宇宙線がどこで生まれ,どのように地球にやってきたのかについては未だ明らかになっていない.極高エネルギー宇宙線がどこからやってきたのかを明らかにするため,世界9か国/地域の国際共同宇宙線観測実験,テレスコープアレイ実験がはじまった.テレスコープアレイ実験は,面積3 m2のプラスチックシンチレーターを1.2 km間隔で507台設置した地表粒子検出器アレイであり,700 km2の面積にやってくる極高エネルギー宇宙線の観測を2008年から続けている.これまで15年以上の定常観測の中で,もっとも高いエネルギーをもつ宇宙線が冒頭で紹介したアマテラス粒子である.アマテラス粒子は,地球大気に入射したあと大気との相互作用によって二次粒子群(空気シャワー)を生成し,23台の地表粒子検出器でほぼ同時に信号が検出された.それぞれの検出器で記録された空気シャワーの到来時間差と粒子数密度から,アマテラス粒子の到来方向とエネルギーが推定された.アマテラス粒子のような極めて高いエネルギーをもつ宇宙線は,宇宙磁場ではほとんど曲げられず,到来方向が発生源をさししめすことが期待されていた.しかし,驚くべきことにアマテラス粒子の到来方向には有力な候補天体が見あたらず,わたしたちのいる天の川銀河の近傍の大規模構造では局所的空洞(ローカルボイド)と呼ばれる方向から到来していた.極高エネルギー宇宙線の発生源としては,大質量ブラックホールをもつ,おとめ座銀河団にある楕円銀河(M87)や,星形成が非常に活動的な銀河(M82)が候補天体として考えられていたが,それらのどの方向とも異なっていたのである.このことの説明には,不定性の大きい宇宙磁場を仮定した天体起源シナリオの議論のほか,未知の天体現象,暗黒物質(ダークマター)の崩壊やモノポールといった新物理起源の可能性も提案されている.
Author 藤田, 慧太郎
藤井, 俊博
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