印欧語における中・受動態動詞の先史―ヒッタイト語からの新たな根拠

3人称単数中・受動態動詞に生じた-a → -taと-a → -attaという2つの形態変化は,ヒッタイト語の歴史時代になお働いている.この事実に加えて,-attaを持つ形式が古期ヒッタイト語にみられないこと,および多くの命令形にa-クラスの特徴が保存されていることから,-taを持つ中・受動態動詞が最初につくられたのは,ヒッタイト語の先史のそれほど古い段階でないことが分かる.さらに,-taが現在形よりも過去形に顕著にみられることから,ta-クラスの中・受動態動詞の多くがつくられたのは,現在語尾に生じた破擦音化(*-ti>*-tsi)の後と言うことができる.この分析に従うならば,アナトリア祖...

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Published in言語研究 Vol. 130; pp. 43 - 82
Main Author 吉田, 和彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本言語学会 2006
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ISSN0024-3914
2185-6710
DOI10.11435/gengo.130.0_43

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Summary:3人称単数中・受動態動詞に生じた-a → -taと-a → -attaという2つの形態変化は,ヒッタイト語の歴史時代になお働いている.この事実に加えて,-attaを持つ形式が古期ヒッタイト語にみられないこと,および多くの命令形にa-クラスの特徴が保存されていることから,-taを持つ中・受動態動詞が最初につくられたのは,ヒッタイト語の先史のそれほど古い段階でないことが分かる.さらに,-taが現在形よりも過去形に顕著にみられることから,ta-クラスの中・受動態動詞の多くがつくられたのは,現在語尾に生じた破擦音化(*-ti>*-tsi)の後と言うことができる.この分析に従うならば,アナトリア祖語および印欧祖語に再建される3人称単数中・受動態語尾は1次語尾*-or,2次語尾*-oということになる.一般に受け入れられている1次語尾*-tor,2次語尾*-toは印欧祖語に遡らず,アナトリア語派の祖語からの離脱以降につくられたと考えられる.
ISSN:0024-3914
2185-6710
DOI:10.11435/gengo.130.0_43