慢性期の脳血管障害に伴う知的機能障害の短期間の変化

慢性期の脳血管障害に対する客観的な治療効果を知るため, 脳循環・代謝改善薬の二重盲検比較試験が行れている. 本稿では7つの臨床試験資料を集合解析して, 短期間の治療において知的機能障害の改善が期待しうる患者の特性を探索的に検討することを試みた. これらの臨床試験で脳梗塞, 脳出血, 脳動脈硬化症のいずれかに診断された症例は2,818例であり, このうち臨床試験開始時に長谷川式痴呆診査スケール (以下, 長谷川式スケール) で21.5以下の中等度以上の知的機能低下を示した943症例を分析対象とした. 8週間の脳循環・代謝改善薬による治療において長谷川式スケールで測定し得た知的機能障害の変化に関し...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 26; no. 5; pp. 499 - 506
Main Authors 藤田, 利治, 栗原, 雅直, 長谷川, 和夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 01.09.1989
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ISSN0300-9173
DOI10.3143/geriatrics.26.499

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Summary:慢性期の脳血管障害に対する客観的な治療効果を知るため, 脳循環・代謝改善薬の二重盲検比較試験が行れている. 本稿では7つの臨床試験資料を集合解析して, 短期間の治療において知的機能障害の改善が期待しうる患者の特性を探索的に検討することを試みた. これらの臨床試験で脳梗塞, 脳出血, 脳動脈硬化症のいずれかに診断された症例は2,818例であり, このうち臨床試験開始時に長谷川式痴呆診査スケール (以下, 長谷川式スケール) で21.5以下の中等度以上の知的機能低下を示した943症例を分析対象とした. 8週間の脳循環・代謝改善薬による治療において長谷川式スケールで測定し得た知的機能障害の変化に関して, 以下の成績を得た. 1) 長谷川式スケール上で10点以上の改善は11% (102/943) であり, 5点以上の改善は34% (322/943) と多く, 知的機能がかなり改善する例がみられた. 2) 主要な患者因子のなかでは長期の罹病期間, 高年齢, 重篤な概括重症度, 重篤な知的機能障害重症度が, その後の知的機能障害の悪化と関連していた. しかし, 性, 診断名, 合併症の有無, リハビリの有無は有意な関連を示さなかった. 3) 知的機能障害変化と関連する上記の患者因子を共変量として分散共分散分析を行った結果, 次の患者因子がさらに知的機能障害変化と関連していた. すなわち, 自覚症状 (めまい, 頭痛・頭重, のぼせ感), 不安焦燥は重篤なほどその後の知的機能障害は改善する傾向がみられ, 逆に, 尿失禁, ADL (用便) の問題, 運動障害, 総蛋白低値は悪化と関連していた. 以上の成績に関して, 知的機能障害の可逆過程から不可逆過程への移行, 知的機能障害悪化に対する老化の寄与, 知的機能障害評価における周辺症状の影響などから考察した.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.26.499