大動脈手術患者におけるフィブリノゲン製剤の有用性評価に関する研究

[目的]胸部大動脈手術を対象にフィブリノゲン製剤を使用し低フィブリノゲン血症を改善することにより,凝固機能が改善し,出血傾向が制御できるか否かを観察した.[方法]胸部または胸腹部大動脈手術で150 mg/dl未満の低フィブリノゲン血症を呈した32症例を対象に,ROTEM sigmaを用い血液粘弾性測定を行うとともに,3分間出血量を測定し,出血傾向の改善を評価した.[結果]血中フィブリノゲン値は人工心肺終了時には109±26 mg/dlに低下したが,フィブリノゲン製剤投与により平均231±38 mg/dlと有意(p<0.0001)な上昇を示した.3分間出血量は,ヘパリン中和後は平均144±88...

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Published in日本心臓血管外科学会雑誌 Vol. 54; no. 4; pp. 143 - 153
Main Authors 山中 勝弘, 松井 茂之, 六鹿 雅登, 長田 裕明, 伊藤 英樹, 岡田 健次, 田村 高廣, 碓氷 章彦, 湊谷 謙司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会 15.07.2025
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ISSN0285-1474
1883-4108
DOI10.4326/jjcvs.54.143

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Summary:[目的]胸部大動脈手術を対象にフィブリノゲン製剤を使用し低フィブリノゲン血症を改善することにより,凝固機能が改善し,出血傾向が制御できるか否かを観察した.[方法]胸部または胸腹部大動脈手術で150 mg/dl未満の低フィブリノゲン血症を呈した32症例を対象に,ROTEM sigmaを用い血液粘弾性測定を行うとともに,3分間出血量を測定し,出血傾向の改善を評価した.[結果]血中フィブリノゲン値は人工心肺終了時には109±26 mg/dlに低下したが,フィブリノゲン製剤投与により平均231±38 mg/dlと有意(p<0.0001)な上昇を示した.3分間出血量は,ヘパリン中和後は平均144±88 mlであったがフィブリノゲン製剤投与後は85±74 mlと有意な減少を示した(p=0.0001).しかし,6例において3分間出血量はむしろ増加し,出血量低下を示した症例は26例(82%)であった.Fibtem A10はヘパリン中和後に4.8±2.7 mmと極度の低値であったが,フィブリノゲン製剤投与により14.1±4.1 mmと手術開始時を超える値を示した(p<0.0001).外因系凝固能を反映するExtem A10および内因系凝固能を反映するINTEM A10は,ヘパリン中和後は31.3±11.0 mm,30.9±10.7 mmと低値であったが,フィブリノゲン製剤投与により42.2±8.9 mm,39.1±8.7 mmと有意に上昇した(p<0.0001).32例に死亡例はなかったが,血栓塞栓症を否定できない症例を3例認めた.2例は心筋梗塞で,再建した右冠動脈の閉塞が原因であり,他の1例は弓部置換術後の新規脳梗塞であったが,フィブリノゲン製剤投与との因果関係は明らかではなかった.[結語]フィブリノゲン製剤投与により血中フィブリノゲン値は速やかに上昇し,出血量は減少した.加えて,外因系および内因系凝固能の有意な改善を認めた.
ISSN:0285-1474
1883-4108
DOI:10.4326/jjcvs.54.143