研究成果の行政施策への利用を促進するために「研究過程」において必要となる要因 厚生労働科学研究費補助金における研究課題の企画・実施からその研究成果の利用までのプロセスの事例分析
目的:保健医療分野においてエビデンスに基づく政策形成の必要性が強調されているが,研究成果の政策への利用は十分ではない.これまでの研究の多くは「政策過程」において既存の研究成果の利用を促進する要因に焦点を当てているため,研究が実施され,研究成果が産出され,利用されるまでの「研究過程」における要因の影響は明らかにされていない.そこで本研究は,事例分析を通じて,研究過程において研究成果の利用を促進する要因を同定する. 方法:対象事例は,厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)の公募研究課題「地域保健対策におけるソーシャルキャピタルの活用のあり方に関する研究」であった.この課題は...
Saved in:
| Published in | 保健医療科学 Vol. 66; no. 1; pp. 56 - 66 |
|---|---|
| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
国立保健医療科学院
01.02.2017
|
| Subjects | |
| Online Access | Get full text |
| ISSN | 1347-6459 2432-0722 |
| DOI | 10.20683/jniph.66.1_56 |
Cover
| Summary: | 目的:保健医療分野においてエビデンスに基づく政策形成の必要性が強調されているが,研究成果の政策への利用は十分ではない.これまでの研究の多くは「政策過程」において既存の研究成果の利用を促進する要因に焦点を当てているため,研究が実施され,研究成果が産出され,利用されるまでの「研究過程」における要因の影響は明らかにされていない.そこで本研究は,事例分析を通じて,研究過程において研究成果の利用を促進する要因を同定する. 方法:対象事例は,厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)の公募研究課題「地域保健対策におけるソーシャルキャピタルの活用のあり方に関する研究」であった.この課題は平成25~26年度に実施され,その研究成果(ソーシャルキャピタルの醸成・活用のための手引き・マニュアル)は全国の自治体に事務連絡として発出され,厚生労働省のホームページに掲載された.本研究課題に関連して行われた会議,打ち合わせ等の議事録を用いて,研究課題の企画・公募から,調査研究の実施・完了,研究成果の利用までに発生した出来事,関係者(研究代表者,行政担当者,研究事業推進官等)の行動や発言を整理し,研究過程を詳述するとともに,研究成果の利用を促進した要因を同定した. 結果:以下の要因が同定された.①研究の目標と成果物が明確化されたことによって,研究代表者,行政担当者,評価委員はその共通認識のもとで各自の役割を果たすことができた.②研究事業推進官が「知識ブローカー」として,研究者と行政担当者の両方からの信頼を獲得して両者の信頼関係を間接的に構築する役割,研究期間の終了後も,行政担当者の異動後も,継続的に両者を結びつける役割,複数の研究者の個別の意見を集約して行政担当者に効率的に伝達する役割,を果たしていた.③意見交換会,連絡会議,学会でのシンポジウムなどを通じて,研究者の間に「認識コミュニティ」が構築され,研究成果の全国への普及を目指して研究を遂行することができた.④研究者が保有していない「行政管理上の知識」によって,事務連絡という研究成果の普及方法を利用することができた. 結論:①~④の要因は,政策過程だけでなく研究過程においても研究成果の利用を促進する可能性があることが示唆された.本研究は事例研究であるため,今後は他の事例を収集・分析し,より厳密に利用促進要因を検討する必要がある. |
|---|---|
| ISSN: | 1347-6459 2432-0722 |
| DOI: | 10.20683/jniph.66.1_56 |