アスリートとしての反レイシズム実践とそのジレンマ ある日本プロ野球選手のBlack Lives Matter運動に関するソーシャルメディア投稿を事例に

近年、ソーシャルメディアの普及を背景として、人種的マイノリティのアスリートによるレイシズムへの抗議が様々な競技で顕在化している。先行研究では、アスリートたちがアスリートとしての立場とアクティビストとしての立場の間でのジレンマに、またときには大規模なバックラッシュやファンとの葛藤に直面することが報告されてきた。本稿では、こうした状況のなかで例外的に反レイシズムに訴えつつ好意的な支持を広く集めたとされる、あるアフリカ系のプロ野球選手のBlack Lives Matter運動に関するTwitterの投稿を事例として取り上げる。人種的マイノリティとしての背景を持つプロアスリートがこうした困難な状況にい...

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Published inスポーツ社会学研究 Vol. 31; no. 2; pp. 93 - 106
Main Author 有賀, ゆうアニース
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本スポーツ社会学会 2023
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ISSN0919-2751
2185-8691
DOI10.5987/jjsss.31-2-03

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Summary:近年、ソーシャルメディアの普及を背景として、人種的マイノリティのアスリートによるレイシズムへの抗議が様々な競技で顕在化している。先行研究では、アスリートたちがアスリートとしての立場とアクティビストとしての立場の間でのジレンマに、またときには大規模なバックラッシュやファンとの葛藤に直面することが報告されてきた。本稿では、こうした状況のなかで例外的に反レイシズムに訴えつつ好意的な支持を広く集めたとされる、あるアフリカ系のプロ野球選手のBlack Lives Matter運動に関するTwitterの投稿を事例として取り上げる。人種的マイノリティとしての背景を持つプロアスリートがこうした困難な状況にいかに関与しているのかを分析する。テクスト上の表現を通じて人種や人種主義をめぐるアイデンティティや行為がいかに産出されるのかという視座からその投稿とそれに対するリプライを分析し、以下の知見を得た。彼は人種差別として理解されうる経験を物語りつつ、それが誰かへの非難として受け止められないように自らの物語を慎重にデザインすることで、レイシズムへの抗議とファン、ユーザーとの協調的関係の維持という困難な2つの課題を同時に追求していた。そしてその投稿に対するリプライも、一方では反差別の観点からアスリートへの共感や同調、他方ではスポーツの観点からアスリートへの賛美・応援にそれぞれ分岐することで、アスリートとオーディエンスたちの間で複合的な同調的関係が現出していた。以上の知見は、日本のスポーツ界において人種的マイノリティとしての背景をもつアスリートがいかなる課題に直面し、それを達成しようとしているのかを明らかにしている点で、スポーツ社会学研究へ貢献する。
ISSN:0919-2751
2185-8691
DOI:10.5987/jjsss.31-2-03