学内母性看護学実習プログラムにおける学生のコミュニケーション能力の評価 模擬患者への調査

(緒言) 2020年の新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で看護系教育機関では医療機関における臨地実習の縮小や中止が余儀なくされた.そのため母性看護学の対象である母子と接する機会が減ることにより,学生のコミュニケーション能力への影響が懸念された.そ のため,学内において模擬患者(以下,Simulated Patient:SP と略す)を活用したコミュニケーション能力の習得を目指したプログラムを考案し導入した.本研究では,SPの視点から,プログラムにおける学生のコミュニケーションについて,①できていたこと,②できていなかったことを明らかにし,学生のコミュニケーションの実際を評価することを目的...

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Published in千葉県立保健医療大学紀要 Vol. 14; no. 1; p. 1_87
Main Authors 川城, 由紀子, 川村, 紀子, 北川, 良子, 増田, 恵美, 山﨑, 麻子, 石井, 邦子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 千葉県立保健医療大学 31.03.2023
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ISSN1884-9326
2433-5533
DOI10.24624/cpu.14.1_1_87

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Abstract (緒言) 2020年の新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で看護系教育機関では医療機関における臨地実習の縮小や中止が余儀なくされた.そのため母性看護学の対象である母子と接する機会が減ることにより,学生のコミュニケーション能力への影響が懸念された.そ のため,学内において模擬患者(以下,Simulated Patient:SP と略す)を活用したコミュニケーション能力の習得を目指したプログラムを考案し導入した.本研究では,SPの視点から,プログラムにおける学生のコミュニケーションについて,①できていたこと,②できていなかったことを明らかにし,学生のコミュニケーションの実際を評価することを目的とした.(研究方法) 研究デザインは質的記述的研究デザインとした.研究対象者はプログラムを担当したSPのうち研究参加に同意が得られた者で,調査期間は2021年10月から2022年2月であった.調査方法は,対面あるいはオンラインによる半構成的面接法とし,SPの役割を終えた後2日以内に調査を行った.調査内容は,SPの立場から,コミュニケーションの目標について学生が①できていたことと②できていなかったことを語ってもらった.分析はインタビューデータから逐語録を作成し,それぞれの目標における学生のコミュニケーションの実際を示す文脈を抜き出し,意味内容を損なわずにコード化を行った.目標ごとに類似性や異質性に基づき抽象度を上げカテゴリ化を行った.分析は研究メンバー全員で行い,分析の妥当性を担保した. プログラムにおけるコミュニケーションの目標は以下を設定した.1.母子に関心と思いやりを持ち,態度に表すことができる.2.母子の状態や場に合わせて情報収集することができる.3.褥婦の状態に合わせて思いを引き出し,表出に対して傾聴・共感的態度がとれる.(結果) 延べ12名のSPから同意が得られ,調査を行った.インタビュー時間は平均41.5分であった.生成されたカテゴリを「」で示した.目標1について①できていたこと(コード数72)は,「話しやすい雰囲気づくり」「身体や体調に対する配慮」等であり,②できていなかったこと(コード数19)は「羞恥心への配慮不足」「児への関心の欠如」等であった.目標2について,①できていたこと(コード数32)は「現在の心身の状態を考慮した質問」「自然なやりとりの中での情報収集」等であり,②できていなかったこと(コード数20)は,「現在の状況と関連ない質問」「学生本位の質問」等であった.目標3について,①できていたこと(コード数41)は「育児の大変さや苦痛の理解」「育児への思いの受け入れ」「頑張りの承認」等であり,②できていなかったこと(コード数29)は,「先入観を持ったかかわり」「育児への思いの理解が不十分」等であった.(考察) 目標1では,話しやすい雰囲気を持ち相手を思いやる基本的なコミュニケーション能力や医療者として信頼される態度は概ね身についていることが考えられた.一方で実践の場に慣れていないことから,ケア実施に焦りがみられたり,ケアを行うことに集中するあまり,羞恥心に配慮する余裕がないことが考えられた.目標2では,対象母子の心身の状態やその場の状況の理解ができていることにより,対象に合わせた情報収集ができることが考えられた.一方で対象の状態を考慮せず学生が一方的に情報収集している状況もあり,対象の理解を促しながら情報収集の方法を指導する必要性が考えられた.目標3では,学生は対象の苦痛や思いの受け入れ,頑張りやできていることを承認する行動がとれていた.一方で対象の思いをくみ取れず,表面的な対応となる状況も考えられた. 臨地実習で対象者と接した経験が少ない学生であることから,対象に合わせた情報収集や共感的態度の習得に課題が見いだされた.今後これらを強化できるよう実習プログラムを改善する必要がある.(倫理規定) 本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(2021-26).
AbstractList (緒言) 2020年の新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で看護系教育機関では医療機関における臨地実習の縮小や中止が余儀なくされた.そのため母性看護学の対象である母子と接する機会が減ることにより,学生のコミュニケーション能力への影響が懸念された.そ のため,学内において模擬患者(以下,Simulated Patient:SP と略す)を活用したコミュニケーション能力の習得を目指したプログラムを考案し導入した.本研究では,SPの視点から,プログラムにおける学生のコミュニケーションについて,①できていたこと,②できていなかったことを明らかにし,学生のコミュニケーションの実際を評価することを目的とした.(研究方法) 研究デザインは質的記述的研究デザインとした.研究対象者はプログラムを担当したSPのうち研究参加に同意が得られた者で,調査期間は2021年10月から2022年2月であった.調査方法は,対面あるいはオンラインによる半構成的面接法とし,SPの役割を終えた後2日以内に調査を行った.調査内容は,SPの立場から,コミュニケーションの目標について学生が①できていたことと②できていなかったことを語ってもらった.分析はインタビューデータから逐語録を作成し,それぞれの目標における学生のコミュニケーションの実際を示す文脈を抜き出し,意味内容を損なわずにコード化を行った.目標ごとに類似性や異質性に基づき抽象度を上げカテゴリ化を行った.分析は研究メンバー全員で行い,分析の妥当性を担保した. プログラムにおけるコミュニケーションの目標は以下を設定した.1.母子に関心と思いやりを持ち,態度に表すことができる.2.母子の状態や場に合わせて情報収集することができる.3.褥婦の状態に合わせて思いを引き出し,表出に対して傾聴・共感的態度がとれる.(結果) 延べ12名のSPから同意が得られ,調査を行った.インタビュー時間は平均41.5分であった.生成されたカテゴリを「」で示した.目標1について①できていたこと(コード数72)は,「話しやすい雰囲気づくり」「身体や体調に対する配慮」等であり,②できていなかったこと(コード数19)は「羞恥心への配慮不足」「児への関心の欠如」等であった.目標2について,①できていたこと(コード数32)は「現在の心身の状態を考慮した質問」「自然なやりとりの中での情報収集」等であり,②できていなかったこと(コード数20)は,「現在の状況と関連ない質問」「学生本位の質問」等であった.目標3について,①できていたこと(コード数41)は「育児の大変さや苦痛の理解」「育児への思いの受け入れ」「頑張りの承認」等であり,②できていなかったこと(コード数29)は,「先入観を持ったかかわり」「育児への思いの理解が不十分」等であった.(考察) 目標1では,話しやすい雰囲気を持ち相手を思いやる基本的なコミュニケーション能力や医療者として信頼される態度は概ね身についていることが考えられた.一方で実践の場に慣れていないことから,ケア実施に焦りがみられたり,ケアを行うことに集中するあまり,羞恥心に配慮する余裕がないことが考えられた.目標2では,対象母子の心身の状態やその場の状況の理解ができていることにより,対象に合わせた情報収集ができることが考えられた.一方で対象の状態を考慮せず学生が一方的に情報収集している状況もあり,対象の理解を促しながら情報収集の方法を指導する必要性が考えられた.目標3では,学生は対象の苦痛や思いの受け入れ,頑張りやできていることを承認する行動がとれていた.一方で対象の思いをくみ取れず,表面的な対応となる状況も考えられた. 臨地実習で対象者と接した経験が少ない学生であることから,対象に合わせた情報収集や共感的態度の習得に課題が見いだされた.今後これらを強化できるよう実習プログラムを改善する必要がある.(倫理規定) 本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(2021-26).
Author 北川, 良子
山﨑, 麻子
川城, 由紀子
増田, 恵美
石井, 邦子
川村, 紀子
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