情動的側面(破局的思考)が痛みに関与していた症例 外傷性右肩関節脱臼の一例を通して
【はじめに】 国際疼痛学会は,痛みには感覚的側面と情動的側面があると定義している.今回は,患者が訴える痛みを,身体的因子のみでなく,情動的側面の1つである破局的思考やその背景に着目し評価・治療を行い,若干の知見を得たので考察を交えて報告する. 【症例情報】 70歳代女性.職業:主婦(ご主人と二人暮らし).診断名:外傷性右肩関節脱臼(前方脱臼).現病歴:自宅にてトイレに行こうとした際に転倒.既往歴:糖尿病(S60),高血圧(S60),シーハン症候群(S60),変形性股関節症(H18),変形性腰椎症(H20),パーキンソン症候群(H21) 【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づいた本研究の趣旨...
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Published in | 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 163 |
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Main Authors | , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
九州理学療法士・作業療法士合同学会
2011
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Subjects | |
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ISSN | 0915-2032 2423-8899 |
DOI | 10.11496/kyushuptot.2011.0.163.0 |
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Summary: | 【はじめに】 国際疼痛学会は,痛みには感覚的側面と情動的側面があると定義している.今回は,患者が訴える痛みを,身体的因子のみでなく,情動的側面の1つである破局的思考やその背景に着目し評価・治療を行い,若干の知見を得たので考察を交えて報告する. 【症例情報】 70歳代女性.職業:主婦(ご主人と二人暮らし).診断名:外傷性右肩関節脱臼(前方脱臼).現病歴:自宅にてトイレに行こうとした際に転倒.既往歴:糖尿病(S60),高血圧(S60),シーハン症候群(S60),変形性股関節症(H18),変形性腰椎症(H20),パーキンソン症候群(H21) 【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づいた本研究の趣旨について十分説明を行い,同意を得た.また,当院の倫理委員会に本研究の趣旨を説明し,了承を得た上で実施した. 【経過】 H22.8月:受傷後,当院にて徒手整復.三角巾+バストバンドにて4w固定.順調に可動域改善し,H22.12月:非受傷側と同等の自動挙上可動域を獲得.しかし,肩動作時の痛みが持続し,結果的に算定上限日数150日超えとなる. 【理学療法評価 H23.1】 疼痛:動作時痛(特定の動作での再現痛),夜間痛・安静痛.VAS:73/100mm.可動域制限:1st外旋50°,2nd外旋55°,2nd内旋40°,整形外科的テスト:apprehension test(+),圧痛:肩甲下筋、上腕二頭筋、大胸筋、広背筋、大円筋,姿勢:円背,体幹屈曲位,両肩伸展位(杖使用は右側),Pain Catastrophizing Scale(以下PCS):41/52点 【治療】 大円筋・広背筋リリース,腱板訓練,体幹伸展運動,洗濯物干し練習(後に追加) 【結果】 可動域や筋力等の身体的所見に著明な変化は認められなかったが,洗濯物干し動作練習を追加してから3w後, PCS値は22/52点,VAS値も34/100mmまで減少し,主観的な痛みの軽減が認められた. 【考察】 当院が調査したPCSを用いた研究では,起算日から150日超の患者では疼痛に対する無力感を抱いていることが分かっており,本症例のPCS値からも同様の傾向が認められた.毎回の治療介入後,疼痛軽減が認められたが,介入部位や治療内容を変更した場合,身体的所見に変化が生じていない場合でも疼痛軽減が得られていた.また,治療効果は即時的であり,後の治療開始時には痛みの程度は同等であった.しかし,洗濯物干し練習を追加後,痛みの持続的な軽減,PCS値の軽減が得られた.本症例においては,これまでの既往もあり,洗濯物干し作業が唯一の家庭内役割であった.しかし,今回の受傷を境にその作業を行うことさえも困難となり,無力感を助長する一要因となっていたと考えられる.つまり,本症例は家庭内での役割を再獲得できたことが,無力感を改善する因子となり,情動的側面である破局的思考の改善から痛みの軽減に繋がったと考える. |
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Bibliography: | 163 |
ISSN: | 0915-2032 2423-8899 |
DOI: | 10.11496/kyushuptot.2011.0.163.0 |