寄稿論文 石炭産業の衰退と企業・中学校による就職斡旋 空知地域における炭鉱の子どもの中卒後就職・広域移動

本論の目的は,高度成長期の北海道空知地域における企業ならびに中学校・教員による就職斡旋・職業指導の実態を明らかにすることである。北海道内の炭鉱は,全国の農村と同様に,1950年代から新規中卒者・若年労働力の送出元となっていた。これは,職安行政による就職斡旋制度に加えて,石炭企業ならびに炭鉱の学校・教員による就職斡旋・職業指導がプッシュ要因となったからであった。本論では,国内の主要産炭地である空知地域,なかでも炭都夕張を事例にその実態をみていく。 大手石炭企業は,石炭産業の発展期には企業学校を介して,炭鉱の子どもを次世代の労働力として養成していた。しかし,1950年代後半に石炭産業が衰退に転じる...

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Published in現代社会学研究 Vol. 38; pp. 107 - 121
Main Author 笠原, 良太
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北海道社会学会 2025
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ISSN0915-1214
2186-6163
DOI10.7129/hokkaidoshakai.38.107

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Summary:本論の目的は,高度成長期の北海道空知地域における企業ならびに中学校・教員による就職斡旋・職業指導の実態を明らかにすることである。北海道内の炭鉱は,全国の農村と同様に,1950年代から新規中卒者・若年労働力の送出元となっていた。これは,職安行政による就職斡旋制度に加えて,石炭企業ならびに炭鉱の学校・教員による就職斡旋・職業指導がプッシュ要因となったからであった。本論では,国内の主要産炭地である空知地域,なかでも炭都夕張を事例にその実態をみていく。 大手石炭企業は,石炭産業の発展期には企業学校を介して,炭鉱の子どもを次世代の労働力として養成していた。しかし,1950年代後半に石炭産業が衰退に転じると,合理化の一環で,従業員とその子どもを成長産業に移出するため,就職斡旋をおこなった。財閥系の大手石炭企業は,系列会社に斡旋する場合もあった。 また,炭鉱の学校・教員は,石炭産業の衰退を受けて,就職斡旋業務を職安に任せるのではなく,自らおこなった。炭鉱外の状況を知る教員を中心に,市外・道外の求人を開拓し,徹底したスケジュール管理のもと,生徒・父兄の特性に応じた適職紹介・職業指導をおこなった。 こうした石炭企業ならびに学校・教員による就職斡旋・職業指導は,炭鉱の子どもの自由な職業選択を制限する側面もあったが,産業が急速に衰退するなかで,大量の炭鉱の子どもがスムーズに移行・移動するために不可欠であった。
ISSN:0915-1214
2186-6163
DOI:10.7129/hokkaidoshakai.38.107