らい菌のダプソン耐性変異

Diaminodiphenylsulfone(DDS)はハンセン病の治療薬ダプソンとして現在も使用されている最も古くからある薬剤の1つであり, その化学構造はサルファー剤と類似している. 本剤は, サルファー剤同様菌の持つ葉酸合成系を阻害して菌の増殖を抑制する作用を持つ. しかし抗菌薬の宿命とさえ言える耐性菌の発生はこの薬剤でも使用開始直後から確認, 報告されてきている. World Health Organization(WHO)の多剤併用療法が効を奏し個々の耐性菌は一見問題ではないような感を与えるが, ダプソンが多剤併用療法の始まるずっと以前から使用されていること, 選択できる薬剤の種類が...

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Published in日本ハンセン病学会雑誌 Vol. 73; no. 2; p. 116
Main Author 甲斐雅規
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ハンセン病学会 28.03.2004
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ISSN1342-3681

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Summary:Diaminodiphenylsulfone(DDS)はハンセン病の治療薬ダプソンとして現在も使用されている最も古くからある薬剤の1つであり, その化学構造はサルファー剤と類似している. 本剤は, サルファー剤同様菌の持つ葉酸合成系を阻害して菌の増殖を抑制する作用を持つ. しかし抗菌薬の宿命とさえ言える耐性菌の発生はこの薬剤でも使用開始直後から確認, 報告されてきている. World Health Organization(WHO)の多剤併用療法が効を奏し個々の耐性菌は一見問題ではないような感を与えるが, ダプソンが多剤併用療法の始まるずっと以前から使用されていること, 選択できる薬剤の種類が少ない抗らい菌薬であること, 多剤に耐性を獲得した菌の報告もあること等から, 耐性機構の解明及び簡易耐性菌検出法の確立が必要と考えられた. そこでらい菌のダプソン耐性と葉酸合成系酵素の変異の相関について調べた. 1. らい菌とダプソン感受性テスト らい菌は国内のハンセン病療養所から薬剤耐性が疑われる例を中心として供給を受けた生検サンプルからハンセン病研究センターで分離した. ダプソン感受性は1×104個のらい菌を感染させたヌードマウスをダプソン含有飼料で約30週飼育した後の生存菌の有無で決定した. 薬剤量を低度, 中度, 高度と3つに分け, それぞれで生存が確認されたものを低度耐性, 中度耐性, 高度耐性とした. その結果, ダプソン高度耐性臨床分離株を数株得た. 対照菌は当センターで保存しているThai53株を用いた. 2. 遺伝子の増幅と変異部位の塩基配列 他菌のサルファー剤耐性が葉酸合成系酵素の1つであるDihydropteroate synthase(DHPS)の変異と相関があることから, らい菌のDHPSをコードする遺伝子folPの塩基配列をデータベースより調べプライマーを設定し, 遺伝子全域(855bp)をPCR法にて増幅した. 遺伝子内に数種のプライマーを設定し各分離株由来遺伝子のダイレクトシークエンスを行い, 薬剤感受性である対照の配列と比較した. その結果ダプソン耐性株でfolP遺伝子の塩基番号157, 158, 164位が変異していることがわかった. この変異はミスセンス変異でありアミノ酸の変異が予想された. すなわちアミノ酸配列で53位のトレオニンがイソロイシンもしくはアラニンに, 55位のプロリンがロイシンにそれぞれ変異するものであった. サルファー剤はDHPSの基質となるpara-aminobenzoic acid(PABA)の替わりにDHPSに結合し拮抗阻害をおこすが, この結合部分の1つは大腸菌のX線結晶構造解析からDHPSの63位アルギニン(らい菌での54位アルギニン)であることが分かった. そのことを我々の結果と照らし合わせると, ダプソン耐性らい菌ではDHPSの53位もしくは55位アミノ酸に変異が生じ, 立体構造に変化をきたし本来の基質であるPABAは結合するが, ダプソンは結合できなくなっていることが示唆された. 受賞論文:Diaminodiphenylsulfone resistance of Mycobacterium leprae due to mutations in the dihydropteroate synthase bene. KAI M, MATSUOKA M, NAKATA N, MAEDA S, GIDOH M, MAEDA Y, HASHIMOTO K, KOBAYASHI K, KASHIWABARA Y. FEMS Microbiol Lett 1999;177:231-235.
ISSN:1342-3681