PDTによる感染症治療

【はじめに】感染症に対するPDT(APDT:antimicrobial PDT)は, 社会問題化している薬剤耐性菌へも有効とされることから大きな期待が寄せられている. しかしながらAPDTは, in vitroにおいて膨大な研究が行われているにもかかわらず, in vivoにおける研究の報告はごく限定的であり, その困難さを物語っている. これには様々な要因が考えられるが, その1つに光感受性薬剤の感染部位へのデリバリー法が確立していないことがあげられる. 感染部位へは炎症等による血管透過性の亢進により一定の薬剤デリバリー効果は期待されるが, その定量的評価はほとんどなされていない. 著者らは...

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Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 30; no. 2; p. 196
Main Authors 佐藤俊一, 平尾彰浩, 四ノ宮成祥, 齋藤大蔵, 芦田廣, 小原實
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本レーザー医学会 15.07.2009
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ISSN0288-6200

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Abstract 【はじめに】感染症に対するPDT(APDT:antimicrobial PDT)は, 社会問題化している薬剤耐性菌へも有効とされることから大きな期待が寄せられている. しかしながらAPDTは, in vitroにおいて膨大な研究が行われているにもかかわらず, in vivoにおける研究の報告はごく限定的であり, その困難さを物語っている. これには様々な要因が考えられるが, その1つに光感受性薬剤の感染部位へのデリバリー法が確立していないことがあげられる. 感染部位へは炎症等による血管透過性の亢進により一定の薬剤デリバリー効果は期待されるが, その定量的評価はほとんどなされていない. 著者らはその重要性に鑑み, 光感受性薬剤の深さ分解ドシメトリー技術の開発を進めている. 本講演では, APDTの研究動向について概観した後, 著者らが取り組んでいる光音響法による光感受性薬剤ドシメトリー, 創部感染コントロールを目的としたPDT実験について紹介したい. 【光音響法による光感受性薬剤ドシメトリー】光音響法とは, 生体にパルス光を照射した際に光吸収体が発生する熱弾性波(光音響波)を検出することにより, その吸収体を観測する技術である. 薬剤に選択的に吸収される波長の光を用いることにより, その深さ分解計測が可能である. しかし一般の光感受性薬剤が吸収ピークを有する赤色帯においては血液も一定の吸収を示すため, それに起因するノイズが問題となる場合がある. そこで同時に緑色光(532nm)による計測を行って血液由来の信号を取得し, 差分処理により薬剤由来信号を高コントラスト化する手法を採用している. 【創部緑膿菌感染のPDT実験】APDTの適用として著者らが最も期待しているのが, 創部感染の敗血症への移行阻止である. ラット背部に広範囲深II度熱傷(体表面積20%相当)を作製し, 創部に緑膿菌液を塗布して感染を成立させ, 光感受性薬剤としてメチレンブルー(MB)を用いたPDTを施行した(光源に665nm LDを使用). 薬剤デリバリー法としては, 創部表面に薬剤溶液を接触させる方法が簡便である. 実験の結果, 接触時間を長くすることにより創部菌数を2桁減少させうることがわかった. しかし上記ドシメトリーによると薬剤の浸透深さは数100?mにとどまっており, より深部の感染に対する治療には, 静注の併用などデリバリー法の改善が必要であることがわかった. なお同条件において健常皮膚に対するPDTを施行したが, 通常の組織学的評価の範囲で損傷は認められなかった. 【考察・課題】APDTの実用化に向け, PDTが菌のみに作用し健常細胞へは悪影響を与えない条件, いわゆるtherapeutic windowを確保することが重要である. In vivoにおいて, 特に免疫担当細胞への評価が必要である. またバイオフィルム形成時の光感受性薬剤のデリバリーが大きな課題である. 今後ドラッグデリバリーシステムと一体の研究を進める計画である.
AbstractList 【はじめに】感染症に対するPDT(APDT:antimicrobial PDT)は, 社会問題化している薬剤耐性菌へも有効とされることから大きな期待が寄せられている. しかしながらAPDTは, in vitroにおいて膨大な研究が行われているにもかかわらず, in vivoにおける研究の報告はごく限定的であり, その困難さを物語っている. これには様々な要因が考えられるが, その1つに光感受性薬剤の感染部位へのデリバリー法が確立していないことがあげられる. 感染部位へは炎症等による血管透過性の亢進により一定の薬剤デリバリー効果は期待されるが, その定量的評価はほとんどなされていない. 著者らはその重要性に鑑み, 光感受性薬剤の深さ分解ドシメトリー技術の開発を進めている. 本講演では, APDTの研究動向について概観した後, 著者らが取り組んでいる光音響法による光感受性薬剤ドシメトリー, 創部感染コントロールを目的としたPDT実験について紹介したい. 【光音響法による光感受性薬剤ドシメトリー】光音響法とは, 生体にパルス光を照射した際に光吸収体が発生する熱弾性波(光音響波)を検出することにより, その吸収体を観測する技術である. 薬剤に選択的に吸収される波長の光を用いることにより, その深さ分解計測が可能である. しかし一般の光感受性薬剤が吸収ピークを有する赤色帯においては血液も一定の吸収を示すため, それに起因するノイズが問題となる場合がある. そこで同時に緑色光(532nm)による計測を行って血液由来の信号を取得し, 差分処理により薬剤由来信号を高コントラスト化する手法を採用している. 【創部緑膿菌感染のPDT実験】APDTの適用として著者らが最も期待しているのが, 創部感染の敗血症への移行阻止である. ラット背部に広範囲深II度熱傷(体表面積20%相当)を作製し, 創部に緑膿菌液を塗布して感染を成立させ, 光感受性薬剤としてメチレンブルー(MB)を用いたPDTを施行した(光源に665nm LDを使用). 薬剤デリバリー法としては, 創部表面に薬剤溶液を接触させる方法が簡便である. 実験の結果, 接触時間を長くすることにより創部菌数を2桁減少させうることがわかった. しかし上記ドシメトリーによると薬剤の浸透深さは数100?mにとどまっており, より深部の感染に対する治療には, 静注の併用などデリバリー法の改善が必要であることがわかった. なお同条件において健常皮膚に対するPDTを施行したが, 通常の組織学的評価の範囲で損傷は認められなかった. 【考察・課題】APDTの実用化に向け, PDTが菌のみに作用し健常細胞へは悪影響を与えない条件, いわゆるtherapeutic windowを確保することが重要である. In vivoにおいて, 特に免疫担当細胞への評価が必要である. またバイオフィルム形成時の光感受性薬剤のデリバリーが大きな課題である. 今後ドラッグデリバリーシステムと一体の研究を進める計画である.
Author 芦田廣
平尾彰浩
小原實
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