エチオピア高原の農牧複合民における近年の家畜頭数の減少とその原因 ティグライ州東部ゾーンキルテ-アウラエロ郡の南部の事例から

本研究では,エチオピア国ティグライ州高地を対象とし,1)近年の自然・社会環境の変化を鑑みながら,土地利用の変化,放牧パターン,家畜頭数の変化を把握し,2)家畜頭数の減少とその要因について分析するとともに,3)家畜頭数の減少が栄養摂取に負の影響を与えていることを明らかにすることを目的とした.帝政時代から社会主義時代を通じて,大部分の土地はいまだ家畜放牧や薪伐採が自由な自然草地・森林地であった.世帯毎にウシを十数頭から三十頭ほどを飼養し,農牧複合民は資金的にも栄養摂取的にも豊かであった.人口の増加により農耕地の不足が発生し,民主主義時代になって自然草地・森林地での農耕地開拓が進行することになり,自...

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Published in沙漠研究 Vol. 28; no. 1; pp. 1 - 15
Main Authors 竹中, 浩一, 小川, 龍之介, Gebreanenia, Gebremedhin Birhane, 平田, 昌弘
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本沙漠学会 2018
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ISSN0917-6985
2189-1761
DOI10.14976/jals.28.1_1

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Summary:本研究では,エチオピア国ティグライ州高地を対象とし,1)近年の自然・社会環境の変化を鑑みながら,土地利用の変化,放牧パターン,家畜頭数の変化を把握し,2)家畜頭数の減少とその要因について分析するとともに,3)家畜頭数の減少が栄養摂取に負の影響を与えていることを明らかにすることを目的とした.帝政時代から社会主義時代を通じて,大部分の土地はいまだ家畜放牧や薪伐採が自由な自然草地・森林地であった.世帯毎にウシを十数頭から三十頭ほどを飼養し,農牧複合民は資金的にも栄養摂取的にも豊かであった.人口の増加により農耕地の不足が発生し,民主主義時代になって自然草地・森林地での農耕地開拓が進行することになり,自然草地・森林地が急速に縮小していった.また,放牧禁止・森林保護地,季節禁牧地の拡大により,一年を通じて放牧できる自然草地・森林地は更に縮小していった.そして,村落における学校教育が開始され,放牧を担当する牧童が不足するようになっていった.これらの結果から,世帯当たりの飼養家畜頭数は減少していった.家畜を数頭しか飼養できなくなったため,一年を通じて搾乳できず,乳製品を頻繁に摂取できなくなり,乳製品の栄養摂取への貢献度は限定的になっているのが現状となっている.利用可能な飼料資源量の減少と牧童の減少は,世帯当たりの家畜飼養頭数を少ないままに抑制し,今後ともティグライ州の農牧複合民の生業に対して大きな制限要因となり続けていくことであろう.
ISSN:0917-6985
2189-1761
DOI:10.14976/jals.28.1_1